東日本大震災が変えた豪女性の人生 投資銀行を辞め環境活動家に

ウェンディ・ハップグッド(Wild Tomorrow Fund)

「地震が起きた時、私は東京に駐在し、米投資銀行に勤めていました。大震災が起こった時、私はまさに立会場にいたのです」。こう話すのは、現在、野生生物保護団体ワイルド・トゥモロー・ファンド(Wild Tomorrow Fund)の最高執行責任者(COO)を務めるウェンディ・ハップグッド(40)だ。

東日本大震災が起きた時、ハップグッドを震撼(しんかん)させたのは、マグニチュード9.0の地震でも、それに続いた津波でもなく、日に日に深刻さを増していった福島第1原子力発電所での事故だった。

「震災当時、多くの人が『そこまで悪くなかった。(放射能による)死者は出なかったんだから』と言っていました。私は、実際その場にいて身をもって経験したからこそ、人々が環境破壊や地球汚染についての大切なことを見失っていると強く感じたのです」

「私はよく友人に、『仕事を辞めてグリーンピースに参加したいなんてと思うウォール街の銀行員はきっと私だけね』と冗談を言ったものです」

それから数年後、ハップグッドはウォール街を去り、現事務局長のジョン・スチュワードと共にワイルド・トゥモロー・ファンドを設立する。

スチュワードは、2013年に野生生物保全ボランティアとして南アフリカを訪れたのをきっかけに、広告会社のクリエーティブ担当幹部としての仕事を辞めた。「まず目にしたのは、野生動物と、その安全に責任を持つ人々が直面している大きな苦しみでした」(スチュワード)

スチュワードは、ワイルド・トゥモロー・ファンドの持つ影響力に誇りを持っている。「自然界が直面する問題について人々を教育する取り組みについて、非常に誇りを感じています。自分の影響がなければ野生生物保護に取り組むことがなかっただろう多くの人々が積極的に活動する姿を見てきました」


ジョン・スチュワード(右)とウェンディ・ハップグッド。絶滅の危機に瀕するリカオンと。(Wild Tomorrow Fund)

ハップグッドはウォール街を去った2015年、ワイルド・トゥモロー・ファンドの設立に加え、コロンビア大学地球研究所でサステイナビリティーマネジメントの修士課程を開始した。研究対象は、貧困とサイ密猟の関係だった。

密猟はハップグッドが強い関心を持つ問題だ。サイは密猟によって絶滅の危機に瀕しており、野生の個体数はシロサイで2万頭未満、クロサイで5000頭未満という。

ゾウについても同様の状況だ。2007年から、最後の個体数調査が行われた2014年の間に、アフリカゾウの30%が密猟により死んだ。「この7年間で、14万4000頭のゾウが人々の監督下とも言える状況で殺されました。これは過去の危機ではなく、今起きている危機です」
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編集=遠藤宗生

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