そんな疑問から、Forbes JAPANは各分野のビジョナリーリーダー、学者、アーティストと「未来を見通すメソッド」を考える特集「BEST VISIONARY STORY」を実施。「暮らす」というテーマで京都大学学長の山極壽一氏、「遊ぶ」というテーマでチームラボの猪子寿之氏など、各分野の有識者に未来予想図を聞いた。
「食べる」カテゴリーで話を伺ったのは、宇宙物理学者・素粒子物理学者の村山斉教授。東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)の初代機構長を11年にわたって務め、宇宙にまつわるさまざまな謎に挑んでいる。
食べることは、人間が宇宙の一部であることを象徴する行為であると同時に、これからの時代、人は食べることによって未来をつくるアイデアを生み出すようになるだろうと村山教授は語った。
ティータイム中に研究者と議論をする村山斉。ここから新しいアイデアが生まれる。
「食事」は宇宙の循環の一部
──まずお聞きしたいのは、宇宙物理学者にとっての人間という存在についてです。
宇宙はおよそ138億年前に誕生し、空間的には138億光年という果てしない広がりを持っています。対してひとりの人間は、長くても100年ぐらいしか生きられませんし、大きさもせいぜい2メートルぐらい。つまり、宇宙の時間と空間の尺度からすれれば、人間はきわめてちっぽけな存在でしかないわけです。
ところが、そのちっぽけな人間が、138億光年の宇宙のことを考え、思いを巡らすことができる。それがものすごく面白いと思います。人間というのは不思議な存在ですね。
──人間が食べることの意味をどのようにお考えでしょうか?
食べるという行為は、「宇宙の物質循環の一部」だと言えるかもしれません。
──どういうことでしょうか?
そもそも、私たち人間の身体を構成する元素は、宇宙の長い歴史のなかでつくられたものです。およそ138億年前のビッグバン直後の宇宙には、元素としては水素とヘリウムしか存在していません。その水素とヘリウムが集まって恒星ができ、核融合反応によってさまざまな元素がつくられました。
恒星が寿命を終えて爆発すると、それらの元素が宇宙空間に放出されます。こうした元素の塵が集まって、新たな恒星や惑星がつくられます。星が生まれて爆発し、そこからまた次の星が生まれる。この宇宙の物質循環のサイクルのなかで、地球もつくられました。その地球で生命が誕生しました。
──宇宙の壮大なストーリーのなかで、人間は生まれてきたということですね。
人間は、1年も経つと物質的にほとんど入れ替わると言われています。古い細胞は死に、新しい細胞がつくられる。食べることは、その循環を成り立たせる重要な営みです。
生命が循環によって維持されるのは、生命が宇宙の循環のなかで生まれたからなのかもしれません。つまり、人間もこの循環と無縁ではいられない。食べることは「宇宙の物質循環の一部」というのはそういう意味です。