ビジネス

2018.11.07 07:00

「僕らは感情にお金を払う」 変わりゆく価値観と消費のカタチ

CAMPFIRE代表取締役 家入一真(左)、yutori代表取締役 片石貴展(右)


服を買うのはコミュニティに参加するため
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──片石さんのビジネスは、すごく簡略化すると「インターネットでモノを売る」事業です。家入さんからみて、若い世代の“モノを売る”感覚も変化してきたと感じますか?

家入:モノを売り買いする感覚じゃないんだよね。
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片石:まさにそうですね。僕らの場合は「主張」を売っている感覚です。今の若い子は服の機能性より哲学性を求めていると思っていて。その服がどういうルーツで作られて、どんなアイデンティティを表現するものなのかを凄く見ている気がします。だから僕らは、服を立体的に作る必要があります。

立体的とは、単にデザインが可愛いとかかっこいいではなく、映像や写真での見せ方、服を着た時にどう表現してもらうかといったこと。様々な視点でみたとき、共感を呼ぶ哲学性のあるモノが残っていくと思います。

──家入さんにとって「モノを買う」ということはどんな感覚ですか?

家入:そのコミュニティに入るための参加費ですね。モノの売買が、クラウドファンディングやオンラインサロンの仕組みに近づいていると感じています。

服を作っている知人に、オールユアーズの木村さんという方がいます。彼の言葉にすごく納得しました。

「コミュニティのイメージは圧力鍋。熱狂的なコアファンを圧力鍋に集めて、圧力をかける。圧力が高まると、匂いや湯気が外に漏れていく。すると外部の人も何か起きていることに気づき、そこに惹かれて人が集まってくる」と言っていて。

服を売るためにコミュニティ内の圧力を高めることがすごく大事。今までみたいに、同一の服をたくさん作り、たくさんの人に安く売るカタチはなくなっていくと思います。これからは、コミュニティの参加費として服が売られるんじゃないかなと。

古着女子のモデルが顔出しをしない理由は?



片石:コミュニティの参加費という感覚は、僕らの世代にもあると思います。モノが溢れている今の時代、選んだモノに皆が納得感を求めているんです。自分をどう見せて、どんな主張をして、どんな人格を持たせるかを皆が無意識に考えている。だから自分が購入する商品に納得感を求めるのだと思います。

──若い世代の子がインフルエンサーたちに惹かれる理由も「納得感」に近いのではと。

片石:そうだと思いますね。

──ただ、古着女子はインフルエンサーのように顔出しをしていません。これはなぜでしょうか?

片石:顔が出ている・出ていないは、信頼を構成する一要素でしかありません。古着のシルエットや構造を見ると、古着を着る子はコンプレックスの強い子が多い。そうすると、キラキラした女の子のモデルは彼女達が遠ざかる要因にしかならないんです。「この子が可愛いからこの服が可愛く見えているだけ」と。事実、古着コミュニティの中で顔出しをしてフォロワーが多い人はほとんどいません。顔を隠したほうが古着好きな子は没入しやすいんです。

一方で、yutoriのオリジナルブランド「dabbot」は韓国テイストの服なので、モデルに可愛い子やカッコいい子を顔出しで起用します。コミュニティの集合体の子が、何を信頼の要素として捉えているのか、それを汲み取って表現できるかが問われているからです。

──モノを買う価値観の変化について、家入さんはどう思いますか?

家入:「プラダだからいい」「エルメスだからいい」と買い物をする流れは縮小すると思います。各ブランドの裏に連綿と続いてきた物語に惹かれて、皆が服を買う時代になるのでは、と。

あと、高級な商品と手に取りやすい商品の二極化が進んでいくと思いますね。

例えば、本。僕は本を読むとき、大体は電子書籍で読んでいます。でもこの本は手にとって読みたいとか、誰かにプレゼントしたいとか、部屋に飾りたいとか、そんな時は紙の本を購入する。

そもそもしっかりと作られた本が2000円程度で売られていることがおかしい。こだわって装丁が作られて、読みやすく編集された本なら3万円で売られていいと思います。安く気軽に本を読みたい人は電子書籍を買う、そんな流れで二極化がどんどん広がっていくと思います。
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構成=田中一成 写真=柴崎まどか

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