実用化を加速するため、量子コンピューティング企業の「Rigetti Computing(リゲッティ・コンピューティング)」は「Quantum Advantage Prize」という賞を立ち上げ、実社会に役立つ問題を従来のコンピュータよりも良質・高速・安価に解決できたチームに100万ドルを支払うと発表した。
同社CEOのチャド・リゲッティによると、参加チームは同社のクラウドサービス「Quantum Cloud Services」を使うことが条件だという。
「量子コンピューティング市場の発展において、過去5年はフェーズ1だった。業界全体の課題であった汎用的でプログラム可能な量子コンピュータの開発は、我々も他社も成し遂げることができた」とRigettiは話す。
次のフェーズでの目標は、量子コンピュータの方が従来のコンピュータよりも実用的な問題を高速に、もしくは安価に解決できることを実証することだ。理論的には量子コンピュータの方が特定の問題を解くのが速いものの、現段階では技術が未成熟なため、研究者や企業は壁にぶつかっているのが実情だ。
また、量子コンピューティング向けアルゴリズムを使うことで、従来のコンピュータでも処理速度を向上することが可能になった。例えば、18歳の大学生Ewin Tangは、量子コンピュータが威力を発揮すると思われた領域の問題を、従来のコンピュータを使って高速に処理することが可能であることを証明し、大きな話題となった。
Rigetti Computingが高額な賞金を用意した背景には、こうした事情がある。同社が求めているのは理論的な実証でははなく、あくまで実用的な問題の解決だ。100万ドルの賞金を勝ち取るためには、2つの条件を満たさなければならない。
まず、参加チームがRigetti Computingのクラウドサービス上で走らせるアルゴリズムは、従来のコンピューティングよりも「高速であるか、質が高いか、安価でなければならない」。次に、「真の価値を創出する」ことが求められ、純粋に理論的な実証は対象外となる。
優勝者が現れるのは3年以上先に
Rigetti Computingにとって特に重要なのが2つ目の条件だ。「米国で量子コンピューティング産業を発展させるためには、テクノロジーを開発するだけでなく、実際のビジネスの現場に適用し、市場や顧客にとって価値を生み出すことが重要だ。そのために我々は賞金を提供することを考えた」とRigettiは話す。
参加チームは今日からでも自ら問題を見つけて解決に取り組むことが可能だが、Rigetti Computingは今後数カ月をかけてパートナー企業と共同で問題を設定し、データの提供も行う予定だ。
参加チームは問題を解決した後、研究者のコミュニティから評価を受けなければならない。他のチームや専門家らは、問題を見つければ異論を唱えることができる。
異論が出なければ、ビジネス界や科学界のリーダーから成る独立委員会の評価を受ける。委員会メンバーには、アクセンチュアCTOのPaul Daugherty、スタンフォード大学物理学教授のKathryn A Moler、BCGのシニアパートナーであるPhilipp Gerbert、シドニー工科大学教授のMichael Bremmer、シドニー大学准教授のSteve Flammiaが名を連ねる。
委員会が承認すれば、そのチームは100万ドルの賞金を受け取ることができる。しかし、Rigettiによると優勝者が現れるのは「3年から5年先」になる見込みだという。