Gメールにセールスフォース、スラック……。仕事の用途に応じて使い分けるサービスの数が増えてきた。だが訪問先や移動時のログイン作業は煩わしいもの。そんななか、注目を集めているのが企業向けアイデンティティ管理クラウドサービス企業の「Okta(オクタ)」だ。
同社はアプリのアカウントを一元管理する「IDaaS(ID as a Service)」ツールを開発しており、「シングルサインオン」なら1回の利用者認証で複数のサービスを使えるため、いちいちユーザーIDやパスワードを入力せずに済む。冒頭のサービスのほか、Office365やWorkdayといったクラウドサービス、オンプレミス型アプリにも対応しており、社員の働き方の効率化はもちろん、新規顧客に複数のアカウントを発行する場合はその時間も短縮できる。
「優秀な営業職ならば少しでも多くの顧客に会おうとするでしょう。Oktaのモバイルアプリならスマホやタブレット端末で外出先からセールスフォースやEvernoteへ容易にアクセスできます。顧客との時間をより効率的に使えるはずです」と、最高マーケティング責任者(CMO)のライアン・カールソンは語る。
ライアン・カールソン
サンフランシスコに本社を置く2009年創業のOktaは、20世紀フォックスやジェットブルー、英ガトウィック空港など、4700社以上の企業や団体が利用。米調査会社のガートナー社、フォレスター社にそれぞれ「業界リーダー」と位置づけられ、ID管理の分野ではマイクロソフトなど大手の先を行っている。
急成長の背景には、「テクノロジー」と「アイデンティティ」という2つのキーワードがある。ネットスケープの創業者で投資家のマーク・アンドリーセンが「ソフトウェアが世界をのみ込む」と語ったように、今日、企業は業務を効率化するためにもテクノロジーを活用することが求められている。
同社が創業時に20〜30年後の未来を見据えてビジョンを考え抜いた結果、たどり着いたのが「あらゆる企業があらゆるテクノロジーを使いこなせるようにする」というものだった。
一般的に多くの企業は新しい技術を使いたいと考えるものの、慎重にならざるを得ない。まず、新しい技術はどうしてもセキュリティ面でリスクがついて回る。そして新技術は歴史が浅い分、使いにくいか、あるいは慣れを要する。
その課題を解決するのが「アイデンティティ」だとOktaは考えている。ユーザーを新技術へ直につなげる立場からリスクを軽減できる上、ユーザーのことを理解している分、顧客のユーザー体験(UX)の改善にも貢献しやすいのだ。
例えば同社は、米航空会社ジェットブルーの利用者が1つのパスワードで航空券の予約やマイレージ特典など複数にまたがる個別サイトを1回のサインインで利用できるよう、シームレスなUXの開発を手掛けている。それを可能にするのが、すべてを結ぶユーザーの「アイデンティティ」だと、カールソンは話す。
「アイデンティティを通じて、従業員や請負業者、提携企業といった企業のワークフォースの生産性を高める一方で、彼らが顧客に堅牢かつ利便性の高いサービスを提供するお手伝いをしています」