ビジネス

2018.11.10

美容は「独立系ラボ」の時代へ シャンプーで成功した女性起業家

NYでのイベントに参加するナンシー・トゥワイン(左、Getty Images)


トゥワインを独自のビジネス立ち上げへと駆り立てたのは、ゴールドマンへ勤務して3年を迎えた2010年に起きた悲劇だった。医師から化学者になった彼女の母親が、天然素材のフェイスクリームを開発し、これから市場へ出そうかという矢先、自動車事故で亡くなってしまった。

母親の死はトゥワインの人生を一変させた。ウォール街で働くことが「私の生き方ではない」と感じたという。

天然素材を使ったシャンプーの作り方を教えてくれた祖母や母にインスパイアされたトゥワインは、仕事を終えた後の夜間や週末を使い、美容ビジネスのリサーチを始めた。

ニューヨークのスモールビジネス向けライブラリで彼女は、スキンケアの天然素材への転換に関するレポートを目にする。しかし、ヘアケアに関しても同様の転換が起きるかどうかには、ほとんど触れられていなかった。さらにレポートには、クリーンヘアケア市場の高級部門に着目する記述もなかった。

ゴールドマン時代の勤務時間外にトゥワインは、1年以上かけて、非毒性の製品を開発する能力のあるラボと化学者を探した。数百通りの配合の試験には、さらに1年かかった。トゥワインは自身のスタートアップを、イタリア語の“活発さ”とギリシャ語の“地球”を表す言葉を併せ、『Briogeo(ブリオジオ)』と名付けた。

2013年までに彼女は、4種類の配合を完成させた。「クリーンビューティと、明確なニーズを持った消費者層の特定とのコンビネーションだ」と、美容製品小売のブルーマキュリーの共同創業者でCEOを務めるマーラ・ベックは言う。「彼女は非常に早い段階でそのコンビネーションを見出した。業界の向かうべき方向を示すビジョンを掲げた彼女を称賛したい」

当初トゥワインは、自分の蓄えを切り崩してビジネスを進めながら、投資家を探していた。直近の美容業界のゴールドラッシュに興味を示さなかったテクノロジー専門のエンジェル投資家への売り込みを行い、ついに2012年、ロングアイランドで行われたエンジェルネットワークのイベントで、フィリップ・パルミードと出会った。彼はトゥワインのプレゼンテーションを気に入ったものの、自身がヘアケアに関する知識を持たないことを認識していた。

翌年に入ってすぐ、彼は少額の投資として15万ドル(約1700万円)を出資した。トゥワインにとって唯一の外部支援者であるパルミードはこの投資について、「それまでの自分の投資哲学を覆すものだったが、最も成功した投資のひとつになった」と証言している。「直感的な決断だが、彼女という人間を信じた」と彼は言う。

ブリオジオ製品は現在、中東、ヨーロッパ、東南アジアのセフォラの店舗にも展開している。りんご、ケール、抹茶など栄養価の高いスーパーフードを使ったシャンプーとコンディショナーを含む新製品は、セフォラやその他の店舗で購入できる。2018年7月には、美容室での洗髪用に大型の“吊り棚”サイズのシャンプーとコンディショナーをリリースした。

「ゴールドマンでは常に、顧客第一主義だった」とトゥワインは言う。「顧客との関係が最も重要視される。私は同じ精神をブリオジオにも採り入れたんです」

翻訳・編集=フォーブスジャパン編集部

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事