中東の現実を「コメディ」で描く 東京国際映画祭で注目の2作品

第31回東京国際映画祭 受賞者たち(c)2018 TIFF


今年のTIFFのコンペティション部門には、世界109の国と地域から1829本(2018年1月以降に完成した長編映画が対象)の応募があり、うち次の16作品が正式出品として名を連ねた。いずれも映画祭のコンペティション作品にふさわしい、「時代」を身にまとった作品だ。

「アマンダ(原題)」 ミカエル・アース監督、フランス
「半世界」 阪本順治監督、日本
「氷の季節」 マイケル・ノアー監督、デンマーク
「ブラ物語」 ファイト・ヘルマー監督、ドイツ/アゼルバイジャン
「翳りゆく父」 ガブリエラ・アマラウ・アウメイダ監督、ブラジル
「大いなる闇の日々」 マキシム・ジルー監督、カナダ
「ヒズ・マスターズ・ヴォイス」 パールフィ・ジョルジ監督、ハンガリー/カナダ
「ヒストリー・レッスン」 マルセリーノ・イスラス・エルナンデス監督、メキシコ
「愛がなんだ」 今泉力哉監督、日本
「詩人」 リウ・ハオ(劉浩)監督、中国
「ザ・リバー」 エミール・バイガジン監督、カザフスタン/ポーランド/ノルウェー
「シレンズ・コール」 ラミン・マタン監督、トルコ
「テルアビブ・オン・ファイア」 サメフ・ゾアビ監督、ルクセンブルク/フランス/イスラエル/ベルギー
「三人の夫」 フルーツ・チャン(陳果)、香港
「堕ちた希望」 エドアルド・デ・アンジェリス監督、イタリア
「ホワイト・クロウ(原題)」 レイフ・ファインズ、イギリス

以上のなかから、「アマンダ(原題)」が最高賞に選ばれたわけだが、筆者の印象に強く残ったのは、このところ戦火の絶えることのない中東を舞台にした「シレンズ・コール」と「テルアビブ・オン・ファイア」の2作品だ。どちらも、映画祭のコンペティションでは不利と言われるコメディ作品だが、激動する社会の動きを、笑いのなかで的確に捉えていた。


「シレンズ・コール」(c)2018 TIFF

クーデターで撮影が中断

トルコからの出品作品である「シレンズ・コール」は、バブルで建築ラッシュが続く首都イスタンブールが舞台。妻の父が経営する建築会社で働く主人公が、都会の生活に疲れ、バーで出会ったオーガニックの農園を地方で展開する女性の誘いに乗り、イスタンブールを脱出しようとする物語だ。

主人公は、終始、キャリーケースを転がしながら空港へ向かおうとするのだが、そのたびに渋滞や警官などに阻まれ、いつまでたっても街を抜け出せず、また元の場所に戻ってきてしまう。ある種、カフカの「城」的な趣もある物語なのだが、最後は田舎のオーガニック農園にたどりつき、そこでまた、主人公は衝撃を受けることになる。

日本の俳優で言えばリリー・フランキーのような主人公のダメ男ぶりと、エネルギッシュで騒々しいイスタンブールの街が全面的に登場する作品だが、滑稽なコメディのなかに、確かな文明批評が含まれていた。

「この数年間、イスタンブールはクレイジーな状況になっていて、あちこちに建設現場が林立し、しかもそれらが何の計画なく、私たちのクオリティー・オブ・ライフなどまったく考慮せず進んでいる。そういった地獄のような状況について映画をつくろうというのが、最初の発想でした。コメディではありますが、喜劇であり悲劇でもあります」


「シレンズ・コール」のラミン・マタン監督(c)2018 TIFF

ラミン・マタン監督はこのように語るが、彼によれば、現在、イスタンブールの人口は公式では1700~1800万人程度。建設バブルが起きて、マンションがたくさん建てられたが、そのうち150万戸ぐらいが売れ残っているのだそうだ。また、2016年にはクーデターもあり、一度、撮影も中断されたという。そういう意味でも、作品には「時代」が色濃く反映されている。
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文=稲垣伸寿

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