中東の現実を「コメディ」で描く 東京国際映画祭で注目の2作品

第31回東京国際映画祭 受賞者たち(c)2018 TIFF

第31回東京国際映画祭 受賞者たち(c)2018 TIFF

映画は時代を映す鏡だ。11月3日に幕を閉じた第31回東京国際映画祭(TIFF)、コンペティション部門の最高賞である「東京グランプリ」に輝いたのは、フランスから出品された「アマンダ(原題)」だった。

この作品は、パリに住む青年が、姉の突然の死によって、ひとり残された姪の養育者となるまでの逡巡と彷徨を描いたものだが、背景には、2015年11月13日に起きたパリ同時多発テロ事件が重なる。

「社会的メッセージを込めようとは意識していませんでしたが、そのように受け取ってもらえるのは嬉しい。この作品では、テロで肉親を喪うという悲劇に見舞われた青年と姪を描いているが、結果的に、いまの時代を映すポートレートになっていると思う。そのようにつくろうとすれば、自ずと時代の社会的、政治的な部分も入れざるをえない」

監督のミカエル・アースはこのように語るが、その採り入れ方は、実にスマートで冷静だ。ことさらセンセーショナルにテロの映像を強調することもなく、むしろ、残された青年と幼い姪の揺れ動く関係に、フォーカスを絞っていく。


「アマンダ」監督とプロデューサー(c)2018 TIFF

主人公の青年ダヴィッドは、公園の緑の伐採をしたり、アパート管理の手伝いをしたり、モラトリアムな自由な日々を送っていた。一方、彼の姉の子供である姪のアマンダは、母子2人の暮らしであるがゆえに、母親との密度の濃い日々を送っている。

アマンダの母が、エルヴィス・プレスリーの「冷たくしないで」に合わせて陽気に踊るシーンは印象的で、この時、アマンダが母に質問する「Elvis has left the building(エルヴィスはもう建物を出た)」という言葉の意味が、のちのちの展開で生きてくる。

ダヴィッドと姉の母親は、実は、彼らが若い頃に家を出て、いまはロンドンに住んでいる。姉はダヴィッドに、ウィンブルドンの全英オープンのチケットが入ったので、一緒に出かけようと誘う。その際、母に会おうと姉から誘いを受けるのだが、母の顔もはっきりと覚えていないダヴィッドは、気が進まない。

そんな矢先、姉がテロに巻き込まれ、帰らぬ人となる。その事件では、ダヴィッドが密かに思いを寄せていたレナも怪我を負い、病院に担ぎ込まれる。姉の突然の死で、ひとり残されたアマンダ。ダヴィッドは、身寄りのないアマンダの養育者となることを、周囲から勧められる。


「アマンダ(原題)」(c)2018 TIFF

物語は、印象深いパリの街をバックに、23歳の青年と7歳の少女の交流が丁寧に描かれていく。前述したように、ことさらテロ事件について声高に言及することもなく、淡々としたカメラワークで、2人を追っていく。アース監督が巧みなのは、そんな2人が街を歩く映像にも、背後にさりげなく兵士や警官の姿を映し、微妙な緊迫感も演出している点だ。

「演技、脚本、演出のどれもが素晴らしかった。とくに、細部の描写が力強い作品で、すべての要素が上手くまとまっていた。ラストの結末には感動させられたし、全員一致で最高の作品だという結論に至った」

コンペティション部門審査員の1人であるアメリカの映画プロデューサー、ブライアン・バーク氏は、受賞理由についてこのように語った。東京グランプリのこの作品は、すでに、来夏、日本での公開も決まっている。
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文=稲垣伸寿

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