ビジネス

2018.11.06

「全員経営」を実現するためのコミュニケーション戦略とは?|新居佳英

アトラエ代表取締役 新居佳英




適性よりも尊重される「本人の意志」

──成果達成の肝となる人材配置についても同様に本人のオーナーシップに委ねられているのでしょうか?

はい、向き不向きも大事ですが、基本的には本人の意志や想いを優先して人材配置を決めています。

もちろん「あなたの能力ならこっちの方がスムーズに貢献できる可能性がある」といったようなアドバイスはします。それでも本人がやりたいというのならば、「これくらい努力しなきゃいけないし、こういうところを改善する必要があると思うよ」といった話もきちんとするようにしています。

この考えの根本には、私が逆の立場だった時の体験があります。それは、前職のインテリジェンスを辞める時に、「お前は10を1000にできる経営者だが、0を10にする起業家ではない。だからインテリジェンスの社長になれ」と言われたことです。

自分の適性はよく理解していましたし、みんなにもそう言われるから、わかってはいました。けれども、適性より私は意志が大事だと思い、「僕は0から1000を作りたいんです」と言って辞めました。

その後、もちろん苦労はしましたが、意志さえあればなんとか道は切り開くことが出来ました。そんな原体験があるからこそ、私はできる限り本人の意志を重要視した人材配置をするようにしています。

──とはいえ、本人の意志を尊重したものの、パフォーマンスが発揮できない場合もあるのではないでしょうか?

そういった場合は本人が自然と気づくものです。貢献できないということは「ストレス」ですから。本人が気づいているタイミングで、他のチャンスを提示すると、自発的に選ぶケースが多いです。自分から申告してくるような人もたくさんいます。



ビジネスでも「やりたいこと」だけを突き詰める

──あくまで「やりたいこと」をベースに仕事をされることを徹底されているのですね。

世の中では「給料」で仕事を選ぶ人も多いですが、それは間違っていると思います。

例えば、音楽でハードロックをバンバン歌いたい歌手がいたとします。でも給料のために仕方ないから、アイドルグループに合流したとしたら、たしかに給料は上がるかもしれないけれど、それって本当に幸せなんでしょうか。僕にはそうは思えません。

音楽やスポーツでは当たり前とされている価値観が、ビジネスになった瞬間に「やりたいこと」よりも「給料」が優先されることが多い。これはビジネスの中で「やりたいことが無い」人が多いからでしょう。逆に、起業はビジネスでの「やりたいこと」を優先した結果でしかあり得ません。お金は一つの経済的要素としてもちろん必要ですが、私はお金の量が幸せの量だと思ったことは今まで一度もありません。

私の例を言いますと、28歳の時に起業し、28歳から35歳までが貧乏の極限でした。社長なのに、1年目のメンバーよりもお金が無い状態で、同窓会に行ったら一番貧乏な状態でした。(笑)

そこから上場を経て、今となっては資産が増えましたが、私の中での志や幸せの定義は一切変わっていません。知人からは、貧乏な時代も今も、「楽しそうだね」と言われ続けています。「やりたいこと」をビジネスでも突き詰めることが、最も幸せな状態であると、私の実体験を通して胸を張って言うことが出来ます。

──御社のような取り組みは、なかなか途中からは模倣できないようにも思いますが、いかがでしょうか?

いえ、ある程度規模が大きな組織でも 、途中から組み立て直せると思います。ただ大事なのは「経営者が組織コンセプトを持つこと」、そして「ルールを最初から決めないこと」です。

大事なのは経営者の組織に対するコンセプトであって、ルールではありません。どういう組織にしていきたいか、どういう人がどういう風に働ける様にしていきたいかというコンセプトはちゃんと持った方がいい。その中で、ルールは状況によって柔軟に変化させるべきです。

別にフラットな組織がすべての会社にとって理想形ではありません。しっかりとしたマイクロマネジメントを軸に、マネージャー主導の組織を作っていく、というのも一つの答えでしょう。

どういう形であれ、組織をつくる上ではまず経営者が組織のコンセプトを定めること。そしてルールはあまり決めすぎないこと。これが重要だと思います。

連載 : 起業家たちの「頭の中」
過去記事はこちら>>

文=下平将人 提供元=Venture Navi powered by ドリームインキュベータ

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