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江戸時代の人はあまり働いていなかった?

──AIの普及によって、働きたい、あるいは働く必要があるのに働けない、という人が増えるのですね。いっぽうで、人間の寿命は延びていて、70歳をすぎても現役でいたいと願う人は少なくありません。AIの普及によって、われわれ人間はやはり不幸になると?

いえ、AIの進歩によって仕事の効率が上がることは、人間にとっても悪いことではありません。ただ、1割の人だけが豊かになり、残り9割の人が貧しくなるという状況を避け、全員が幸福に暮らしていくためには、現在の社会制度のあり方を大きく変えなければならないでしょう。

その一つとして、ベーシックインカム(BI)を導入すべきだと私は考えているのです。BIをひとことで言えば、すべての人に最低限の生活費を一律給付する制度。これは、デフレ不況にも効果があるので、AIの進展にかかわらず、今すぐにでも導入すべきだと思うのですが、日本ではなかなかその議論が進みません。

BIの話をすると、「仕事はすべきもの」「働かない人生は不幸だ」と言われますが、勤勉だといわれる日本人も、江戸時代はあまり働いていなかった。「働かなければならない」という儒教的な勤労道徳が人々の間に浸透したのは、明治維新以降のこと。そのおかげで、日本は経済成長を成し遂げられたわけですが、気がつけば働きすぎで、疲弊している人が少なくありません。

もちろん、「しゃかりきに働きたい」という人は働けばいい。そういう人は、2050年でも生き残っているでしょう。しかし、「だらだら過ごしたい。仕事より趣味を大事にしたい」という人も幸せを実感できる社会に、日本も向かうべきでしょう。「誰もが、何がなんでも働くべき」という考えは、人を決して幸福にはしないと思うのです。

「働かなくていい社会!嬉しい!」という人に期待

──長年しみついた勤労道徳を手放すのは、難しいのでは?

たしかに、50代以上の人たちは難しいでしょう。「AI失業など起きるわけがない」と考える人と重なりますね。

しかし、40代以下、とくに私がつきあっている学生たちをはじめ若い世代の意識は、だいぶ変わってきているように感じます。私のゼミ生の中でも、自分で起業したいという働く気まんまんの学生がいれば、働く気はないと公言している学生もいます。若い人たちは趣味もたくさん持っている傾向にあるので、職を失ったとしても、毎日を心豊かに暮らせるのではないでしょうか。

これは私の願望ですが、「働かなくてもいいの!?」と喜ぶ人たちが、独自の面白い文化を作ってくれるのではないでしょうか。

そのためにも、BIの導入が必要です。最低限の経済的保証があれば、自分のやりたいこと、思っていることをふくらませる心と時間の余裕が生まれます。そうなったとき、三島由紀夫の言う「文化がふつふつと沸騰するような社会」になるのではないかと考えています。

ひいては、それが日本に、本当の意味での豊かさをもたらすのではないかと思うのです。


いのうえ・ともひろ◎駒澤大学経済学部准教授。経済学者。慶應義塾大学環境情報学部卒業。IT企業勤務を経て早稲田大学大学院経済学研究科へ入学、同大学院にて博士(経済学)取得。2017年より現職。専門はマクロ経済学、貨幣経済理論、成長理論。人工知能と経済学の関係を研究するパイオニアとして、学会での発表や政府の研究会など幅広く活動。AI社会理論研究会の共同発起人も務める。著書に『ヘリコプターマネー』(日本経済新聞出版社)、『人工知能と経済の未来』(文藝春秋)、『AI時代の新・ベーシックインカム論』(光文社新書)などがある。

文=鈴木裕子 写真=帆足宗洋(AVGVST)

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