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いま、同社の収益の柱となっているのは、食酢と納豆。納豆事業には97年に本格参入した。吉永が入社した4年後のことだ。2012年には吉永が開発に携わった『金のつぶ「パキッ!とたれ」』を発売。納豆にたれをかける際の不便さを解消し、人気の定番商品となった。

しかし、と吉永は続ける。

「『パキッ!とたれ』は“不満解消型”の商品でニーズがはっきりしていた。これからは、もう一歩踏み込んだイノベーティブな商品を世に送り出していきたい」

吉永がイノベーティブな商品として例に出すのが、1964年発売の「味ぽん」。当時も鍋用のぽん酢自体は珍しくなかった。しかし「味ぽん」は、いまや万能調味料として料理や季節を問わずに使われる。家庭のメニューを、さらにいえば、食卓の風景を変えたと言っても過言ではない。

「鍋のつゆという、もともとの商品の価値を見直し、ぽん酢が使われる新しい領域を見つけ出したからこそ、『味ぽん』は誰も気づかなかったニーズの掘り起こしに成功した。ミツカンという企業はなんのために存在しているのか。常に考え、社会に貢献できる新しい価値を探していければ。だって、競争に勝って生き残るだけではつまらないでしょう」

吉永は続ける。

「最近、左脳で食や健康を考える人が増えている気がするんです」

左脳は論理的思考をつかさどる。健康を過剰に意識し、食事やサプリを取る人が増えているというのだ。

「好きな物、おいしい旬の物が体にいいというのが理想。私自身は本能で、右脳で食べたほうが楽しいし、おいしいと思う。健康とおいしさが一致する商品を追求したいですね」

左脳で食べるのではなく、本能が欲する健康的な食べ物を──。吉永が求める革新は、食の原点を問い直す試みに違いない。


よしなが・ともゆき◎1969年生まれ。93年早稲田大学卒業後、中埜酢店入社。営業や製品企画、総務部長などを経て2016年にMizkan Holdings執行役員、Mizkan Partners取締役人事本部長。17年10月から現職。Mizkan Holdingsの取締役兼日本+アジア事業CEOも兼任。

文 = 山川 徹 写真 = 苅部太郎

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