ビジネス

2018.11.06

AI時代に対応できない「日本企業の体質」 11カ国1300のCEO調査から読み解く

KPMGジャパンの酒井弘行CEO


3つ目は、そもそもビッグデータを扱う素地が不足していることです。「不確かな情報が多いから信頼しない」のではなく、それらの情報を含んだ膨大なソーシャルデータの中から有意な傾向を読み取るという発想ができない。また、様々な属性を収集して読み取る情報機器がないし、統計学などの知識をもつ人材の不足も大きい。

「データに基づく示唆よりも自身の経験に基づく直感に従って判断を下したことがある」と回答したCEOの割合が多いのも、データアナリティクスの手法が十分に確立されていなかったり、十分なデータが揃っていなかったりするから。いまはまだ各企業が有用なデータを集めている段階なのではないでしょうか。

──日本のCEOは「自社の経営モデルの抜本的な改革をする準備ができている」の数値も他国に比べてかなり低いです。

1つは、デジタル化への対応の遅れ。その原因は前述の通り、日本にAI人材がもともと多くないことと、日本企業の雇用体系では優れた人材を獲得しにくいことにあるのではないでしょうか。日本のCEO自身がそもそもどのような姿を目指すべきかを描ききれていない可能性も考えられます。
 
ただ、この種の設問では、強気な性格を期待される欧米のリーダーに対して、謙虚な日本人の回答は控えめになることも多々あります。

──AIのような新しい技術を持った人材不足は注目されていますね。その根本原因はどこにあるのでしょうか。

労働流動性の低さに加えて、元をたどれば新卒採用などの制度をつくりだした日本の文化的な性格に原因があると思います。あらゆる同年次の学生に平等な機会を提供しなければならないという配慮が「就活開始時期の決定」といった新卒採用制の根幹にあります。日本では新入社員が足並みを揃えて入社し、その後も年次で職位や給与体系が決まってしまう。優秀な人材をほかの同年代の社員よりも高給で雇うなどの対応ができないため、日本企業はグローバルでの人材獲得競争で勝てないのです。
 
2021年卒から始まる就活ルールの撤廃が、空気を変えるきっかけになると考えています。年次という括りがなくなれば、それに紐づいていた給与体系や昇進の仕組みも徐々に変わっていく。外資企業のように最低限の報酬額だけ決めて、1年間の成果に応じて給与が決まるといった仕組みが増えるでしょう。これに加えて外国人にも広く採用の門戸を開けば、大きな影響があると思うのです。
 
15〜20年の長期スパンで、就活ルール撤廃は日本企業の根本的な体質改善になるはず。もちろん導入前後の数年間はトラブルも、批判もあるでしょう。それでも屈するべきではありません。高度プロフェッショナル制度と合わせて、ようやく日本企業の「横並び」に「No」をつきつける風潮が出てきたのではないでしょうか。
 
LGBTへの配慮やパワハラ対策といった働き方改革の影響も、少なくありません。「他人の考えがわからないとは言えない」状況からようやく、他人の考えがわからないことを前提に議論を始めた段階です。
 
価値観が多様化した現代では、全員の総意によって物事が進むことはありません。総意は不可能という前提をしっかりと共有した上で、そこからいかに合意を形成するかを考えなければなりません。

──KPMGはデジタルトランスフォーメーションの動きに対して、どのような施策を考えていますか。

KPMGでも新しい時代における企業のあり方を議論するために、18年7月にイノベーション施設「KPMGイグニッション東京」を設立しました。その中のインサイトセンターでは、大規模モニターを完備し、データ分析や戦略策定をサポートします。
 
対照的に、イノベーションラボでは一切のデジタル機器の持ち込みを禁止。顔を突き合わせて話し合うことで、刺激的なアイデアが生まれるはず。様々な職種のエキスパートが集結し、次世代に向けた変革の発火点(イグニッション)を目指します。


さかい・ひろゆき◎あずさ監査法人理事長、KPMGジャパンCEO。1980年10月白鳥栄一公認会計士事務所(アーサーアンダーセン)入所。2006年6月本部理事就任。中国事業本部長、IT監査本部長、東京IT監査部長を経て、10年6月専務理事。15年7月から現職。

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会社の成長に欠かせない要素は? 11カ国1300のCEOに調査

構成=野口直希 写真=小田駿一 イラストレーション=ミゲル・カマチョ

この記事は 「Forbes JAPAN 新しい現実」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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