ミュージカリーは中国製アプリで、運営拠点を上海とカリフォルニア州サンタモニカに置いている。昨年11月、同じく中国企業のバイトダンス(字節跳動)に推定10億ドル(約1120億円)で買収され、動画制作やライブ放送ができるアプリ「TikTok(ティックトック)」と合併された。一部のアナリストによると、資金調達ラウンドの最終段階を終えたバイトダンスは、世界で最も価値のあるスタートアップとなった。
ミュージカリーは買収された当時、約6000万人の月間アクティブユーザーを抱えており、米国などの外国で成功を収めた数少ない中国製アプリの一つだった。その若者人気はフェイスブックの関心を引いたが、公表されている数字を疑問視するうわさや、人気度が水増しされているといった懸念を受け、買収には至らなかった。
しかし、バイトダンスによるミュージカリーの買収とティックトックとの合併、また同アプリの人気が衰えず成長していることから、フェイスブックは社内ハッカソンで開発された模倣アプリを市場に投じることを決めた。楽曲の権利については、すでにレーベルと合意済みだ。
フェイスブックは、その開発環境と底知らずのリソースを活用すればほぼどんなモデルも模倣できる。スナップチャットの模倣版開発では、マーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)本人が参加したとも報じられている。
つまりラッソは、フェイスブックが2013年11月にスナップチャットの買収に失敗した後の流れを、ほぼそのまま繰り返すものだ。同社はスナップチャットの4つのバージョンを開発後、最終的にインスタグラムでストーリー機能を導入し、より大きな目標オーディエンスを作ることでスナップチャットを王座から引きずり降ろした。
スナップチャットはそれ以降も米若者世代からの忠実な支持を維持しているものの、インスタグラムのストーリー機能はスナップチャットになじめなかった年長世代を引きつけ、ユーザー総数はスナップチャットの2倍以上となっている。
新サービスの背景に若者のフェイスブック離れ
この戦略からは、非常に不安定なソーシャルネットワーク界に関し、フェイスブックがほぼパラノイアに陥っていることが示されている。ソーシャルネットワークの分野では、ユーザーのトレンドを破壊しそうなものは迅速に買収・模倣することが必要となる。若者層で急激に進むフェイスブック離れは、同社を新規ユーザー取り込みに向けたサービスの模索に駆り立てる原動力となっている。
ラッソでもこの戦略が成功するのか、それとも正しい方程式を見つけるまで数回の試行錯誤が必要なのかはまだ分からない。しかし、年長世代の関心を集めるという意味では、インスタグラムのストーリー機能ほど成功しないだろうと私は思う。私の年齢では、自分が最新のヒット曲に合わせて口パクしたり踊ったりする様子は想像できない。