MBAが、実業界からその価値に疑問を呈されたのは最近のことではない。インベストペディアによれば、私学のMBAは、総額で平均1000万円から2000万円の学費がかかるであろうと伝えている。
アメリカの大学は、さまざまな形で奨学金が豊富に揃っているので、勤勉で優秀であれば誰でも行けるシステムとなっている。しかし、大学院となると、事情はまったく変わる。よほどのことがないかぎり、大学院の奨学金を出すところはほとんどない。
4年制の大学を出てMBAに進むとなると、22、23歳の若さで、いきなり1000万円から2000万円の負担を背負うことになる。MBAの志願者が減少傾向にあるということは、まさに、その過重な負担に対するコストパフォーマンスが問われてきているということにほかならない。
もし、MBAの学費を10年ローンで手当てするとなれば、2000万円の借金で5%の利率としても、年間の利息だけで100万円になる。社会人1年生に、年間100万円もの利子を払う余力はないだろう。そういう事情もあり、この数10年は、いきなりMBAに進むのでなく、いったん社会人となり、ビジネスの経験をある程度積んでから入学する傾向が高い。
科目に特化したミニMBAが増加
とはいえ、ひとくちに経験を積んでからといっても、その職をやめて大学院に入ることにはリスクもあり、不安も大きい。それでも、ハーバード・ビジネス・スクールやスタンフォード大学経営大学院、ペンシルバニア大学のウォートン・スクールの超一流のMBAプログラムは、確実にリクルート活動での優位につながるとして、企業派遣の学生を含め高い人気を保ち、各大学の稼ぎ頭部門とみなされていた。
ところが、今回の調査では、ハーバード・ビジネス・スクールでさえ5%の願書減であり、その他の一流校も軒並み減少させている。また、海外留学生の願書にいたっては、11%も減ったとウォール・ストリート・ジャーナルは報道している。たとえアメリカのMBAを取得しても、移民政策が厳しくなり、就職が難しいことが懸念されて、入学が敬遠される傾向になっているのだ。
さらに、アメリカ人学生にとっても、MBAほど広範でなくとも、データサイエンスやサプライチェーンマネジメントなど、科目の1つに特化したミニコースを取ることのほうが効率がいいという判断もある。
ビシネスコンサルタントという仕事柄、アメリカ人の履歴書をたくさん読んできたが、学歴欄にハーバードやコロンビアなどのブランド大学院の名前を記載しているものの、よく見ると、夏期講習だけとか、科目に特化したミニコースだけを取得しただけというケースはとてもよくある。
そして、その数がどんどん増えるほどに、2000万円のリスクを背負わなくても、あるいは愛着ある会社を辞めなくても、自分のキャリアに必要だと思うところだけを学ぶミニMBAのどこが悪いのだという主張が、疑いのない正論に聞こえてくる。社会はそういう転機にあり、各大学とも、こうした部分講習の広告宣伝に力を入れて、収入増を図っている。