ビジネス

2018.10.26

伊藤忠を総合商社ナンバーワンに導いた「気づき」と「気遣い」

伊藤忠商事会長CEO 岡藤正広


今年(18年)4月には会長CEOに就任。衣食住のサプライチェーンにおいて総合的にビジネスを展開し、躍進している伊藤忠の未来を岡藤はどのように予見しているのだろう。

「衣食住については30年くらいはそんなに変わらないと思うんです。でも、売り方は劇的に変わる」

例に引いたのが、プラスチックだ。欧米ではすでにプラスチックフリーの動きが急速に進んでいる。米スターバックスはプラスチック製のストローを2020年までに廃止すると決定した。岡藤がミラノで泊まったフォーシーズンズ ホテルでは部屋に歯ブラシがなかった。世界で1年間に廃棄される歯ブラシは約36億本。持ち手部分のプラスチックゴミをなくすため、特にリクエストがないかぎり部屋には置かないのだという。

そのような巷の小さな変化、日々の細やかな変化に自ら気がつくことが重要だ、と岡藤は指摘する。世界が大きく変わったときに気がついたのでは、まるで遅いのだと。

「タクシーに乗っているときも、窓の外に目を配ること。この間なんて、新橋駅の交差点の角にあった電気店がスギドラッグになっていて驚きました。最近のドラッグストアの成長は目覚ましい。いつまでもコンビニだけに目を向けていては危ないですね」。

外的環境が激しく変わる世の中で、商社の立場は常に試される。岡藤は従来の縦割りの組織が商社の弱点になるだろうと言う。例えばコンビニの売り場の比率を考える際、これまでどおり日用品担当とコーヒー担当が別々に考えるのではなく、売り場全体を見渡さないといけない。扱う商品よりも売り場そのものの流れを予測せねば、もうモノは売れない時代なのだ。

「商社は商人というものの原点に立ち返るべきではないかと。原点とはつまり、醤油を売っている商人が顧客に『今度は味噌も持ってきてくれ』と言われ、それに応じながら、味噌、みりんと商品を増やしていく。次に、それらを別の顧客に販売することで、商売を大きくしてきた。いま持っている多くの商材をどうしたら欲しい人に届けられるのか、商人の原点・本質に戻って考えたいですね」

冒頭の是枝監督による岡藤会長の印象はこうだ。「いっときもじっとしていない人。即断即決。“商人(あきんど)”という言葉の似合う数少ない大企業のトップではないか」──。

伊藤忠のコーポレートメッセージ「ひとりの商人(しょうにん)、無数の使命」を、岡藤は入社以来ずっと率先してきたのだ。

おかふじ・まさひろ◎1949年、大阪府生まれ。東京大学経済学部卒業後、伊藤忠商事に入社。常務執行役員・繊維カンパニープレジデント、副社長などを経て、2010年代表取締役社長に就任。18年から代表取締役会長CEO。

文=堀 香織 写真=ピーター・ステンバー

この記事は 「Forbes JAPAN 新しい現実」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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