AI時代に求められる高等教育 シンギュラリティ大学の挑戦

SU創業者のRob Nail(左)とレクチャーを受ける少年ら(photo courtesy of Singularity University)


「世界中から集まった参加者はほぼ40代。大学卒業後20年間働いて、次のキャリアをどうするかという個人的な興味を持って参加する人がほとんどだったが、最終的には、科学技術によって世界の様々な問題が解決するという信念を共有し、関心がより公的な方に向いていった。今でもWhatsAppのグループチャットで近況をアップデートし合っている」と柳沢氏。

約80人のメンバーには錚々たる顔ぶれが揃うが、それは仕事の利害がない仲間たち。まるで学生時代からの友だちと話すように、クラスから受けた驚きと可能性について夜中まで話し合っていたという。

「グッチのCEOは3Dプリンターで自社製品が完全にコピーされる時代へ不安を漏らし、ウォールマート南米社長はドローンでスーパーに人が来なくなる時代の自分の役割について率直に語る、そんなかけがえのない時間だった。びっくりするほど多くの人が、プログラムの後に仕事をやめたり職種を変えたり……。次の人生へと舵を切る姿に、今でも刺激を受けている」


柳沢正和氏

柳沢氏の参加の動機は、「ISAKや自身のLGBTに関する活動を通じて、対立のあるトピックに関して、どのように合意形成を図るかという点に関心を持っていた」からだった。しかしプログラムを通じて、相手に課題を知ってもらい、賛成してもらうという多数派形成のやり方以外に「テクノロジーを用いて、そもそもの前提状況を変えてしまうやり方」に触れ、驚愕したという。

「例えば飢餓問題の場合。問題そのものへの関心を集め食糧援助するのではなく、限りなくコストが少ない食糧生産をテクノロジーで実現すると考える。こうしたやり方は、すべての社会問題で考えてみる価値があると思う。私は性的マイノリティーへの差別をどのように解消するかという自分の課題に関して、新しいアプローチを模索していきたいと思っている」

このプログラムに課題があるとしたら、英語をビジネスレベルで話すことが出来ないと参加の意義が失われるということだ。しかし、これも近々テクノロジーが解決してくれるのかもしれない。

実は海外や若者向けプログラムも

シリコンバレーが本拠のSUだが、香港をはじめとする14カ国で既に独自のプログラムを提供している。2019年にはさらに拡大し、30カ国に展開する予定だという。

香港では、3週間SUのチームを招聘し、1週間は企業向け、1週間は政府向け、1週間は高校生大学生に向けて、プログラムを展開。企業と政府がコストを負担してくれるため、学生には破格でプログラム提供ができているという。ぜひ日本で既にSUと関係を持たれていらっしゃる企業さんにも同様のことを考えていただけたら……と思わず考えずにはいられない。

また、実はSUは、私がAcademy Councilのメンバーを務めさせていただいているGEMS Educationのパートナーでもある。GEMSは欧州、中東、アフリカを中心に約70校のインターナショナルスクールを展開し、10万人以上の小中高校生を抱える世界有数の教育事業会社。現在これらの生徒向けのプログラムも開発しているのだという。

こうしたプログラムが確立されてくれば、日本の若い世代にも、もっともっとシンギュラリティーの時代を身近に感じて、その時代だからこそできる変革の起こし方を考えてもらえるかも知れない……そんなワクワク感を胸に、帰国の途に就いた。


「僕は腕が長いから!」と自らセルフィーを撮ってくれました。

ISAK小林りん氏と考える 日本と世界の「教育のこれから」
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文=小林りん

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