「下を向いて歩こう」 面白いネタは足下にある!

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増え続ける世界人口は70億人に達し、今世紀中には100億人を突破すると言われている。人口が増える一方、農地面積の伸びは頭打ちだ。世界の耕地面積16億ヘクタールを単純に70億人で割ると、一人当たりの農地は0.2ヘクタール。14m×14mの面積となる。これが10m×10mを割り込むと凄絶なイス取りゲームが始まると著者は警告する。

ならばどうすればいいか。

植物工場で大量生産しようにも工場は大量のエネルギーと肥料を必要とする。100億人なんてとてもじゃないが養えない。

それなら発想を飛躍させて火星へ移住すればいいだろうか。テラ・フォーミングは現実に研究されているが、残念ながら火星での農業は難しいと言わざるを得ない。

NASAが監修した映画『オデッセイ』では、火星に取り残された主人公が、火星の砂と凍結乾燥させたウンコを混ぜて「土」を作り出し、ジャガイモを栽培する場面が出てくる。本書で初めて知ったが、実は土は地球にしかないという。火星や月の砂(「レゴリス」という)にはなくて、地球の土にはあるもの。それは「腐植」と「粘土」だ。それらは水や酸素、生物の働きによってつくられる。

100億人を養うためには、この地球上で新たに農地を増やすのがもっとも現実的な解決法ということになる。現在農地として利用できているのは陸地面積の11%に過ぎないと聞けば、なんとかなりそうな気もしてしまう。ところが事はそう簡単ではない。地球上にはさまざまな土壌があるからだ。

日本はいかに恵まれているか

いったい「土」とはなんだろうか。

本書によれば、地球上にはわずか12種類の土しかないという。昆虫は75万種、植物は25万種、キノコですら7万種もあるというのに、この少なさには驚く。しかも毎日の食卓を支えるだけの「肥沃な土」となると、さらにここから絞られてしまう。もちろんその分布には地域的な偏りがある。

著者は12種類の土をコンプリートする旅へと読者を案内しながら、それぞれの土の特徴をマニアックに教えてくれる(ちなみに本書の掲載写真はすべてカラーだ。おかげで土の色の違いがよくわかる)。そこから見えてくるのは、土によって生み出される人々の生活であり、歴史だ。土は私たちの暮らしを規定し、時に争いをも生み出す。土と無縁でいられる人は、地球上にひとりもいないのだ。

この本を読むと、日本の土(=黒ぼく土)がいかに多くの恵みをもたらしてくれているかよくわかる。土だけで言えば、日本は今後、農業大国になれる可能性もあるという。だが日本人は普段まったくといっていいほどその恩恵に気がついていない。なんと罰当たりなことだろう。ぼくたちはもっともっと足下に目を向ける必要がある。

本書を読み終えたいま、声を大にしてこう叫びたい気分だ。

「下を向いて歩こう!」

読んだら読みたくなる書評連載「本は自己投資!」
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文=首藤淳哉

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