「エアマックス95が20万円で売られていたとき、『かっこよさがわかれば得する』と気づいた」
土屋:僕は佐藤さんのことを経営者でありながら、本質的にはゼロイチを生み出すデザイナー(クリエイター)だと思っています。STORES.jpとCoineyの統合は、周辺の業界からも驚きの声があがっていました。ですが、学生時代のECサイト運営など、佐藤さんはセンスの発掘を昔から実践している気がします。そのマーケットセンスはどこで培ったのでしょうか?
佐藤:僕がひとよりも少し得意なのは、価値のギャップを見つけることだと思っています。多くの人がいまは過小評価しているけど、本当は大きな価値があるものを見つける作業です。そのギャップを周りがわくわくするストーリーに仕立てるのが、経営センスなのではないでしょうか。
そういう感性の出所は……うーん、単に天邪鬼だったからですかね(笑)。ファッションが特に顕著ですが、思春期時代、僕は神戸にいたのですが、地方特有の東京に対するライバル心が、ひいてはメジャーなものに対するアンチの心につながり、人と違うことを是とするような感性が育ったというか。
一番衝撃だったのは、小学校5年生くらいの頃に、数年前までは1万5000円だったNIKE「エアマックス95」が20万円で売られていたこと。安かった頃に「かっこいい」と思えていたら、20万円の価値を定価の1.5万円で買えていたと思うと、相当悔しかった。
そこで僕が興味をもったのが、この価値のギャップです。自分のスタンスをはっきりさせて「これは格好いい」と言うのは、勇気がいることですよね。それができる人と、誰かが評価したものをフォローする人の間に、これだけの価値の差ができる。
多くの人たちは、定価1.5万円だったエアマックス95を20万円で買わなければならない。単純に前者の存在になった方が得だ、と若い頃に思ったんです。
土屋:僕とほとんど同世代でインプットの内容も変わらないのに、なぜ佐藤さんはこんなにひねくれてしまったんだろう(笑)。
佐藤:村上隆さんが芸術家のやるべきこととして「世界で唯一の自分を見つけて、そのコアの部分と美術史を相対化し発表すること」とたしかおっしゃっておられました。なにかプロジェクトをやるときに私が非常に意識している言葉です。
自分なりのビューを、雑音を削ぎ落としながら見つけていくという作業と同時に、自分なりのビューを磨き込んでいくためのインプットを得ることに自覚的に行動しています。さらにそれを、先程お話したとおり、テクノロジーの進化に伴い変化する人間の脳みそ、常識、感性にぶつけて事業機会を見つけていく、というやり方ですね。
土屋:今日はお時間いただき、ありがとうございました。heyのこと、佐藤さんのことを理解できた気がします。これからのheyが楽しみです。
佐藤:僕が無理なく会社をつくると、自然とheyのような会社になるんです。決済も電子商取引もとてつもなく巨大な市場なので、持続的であることもすごく大切です。そういう意味で、肩肘張らず格好つけず、自然体で、Just for Fun にやっていきたいと思います。