そんな疑問から、Forbes JAPAN 12月号では、ビジョナリーなリーダー、学者、アーティストと「未来を見通すメソッド」を探る特集「BEST VISIONARY STORIES」を実施。「暮らす」というテーマで京都大学学長の山極壽一氏、「死ぬ」というテーマで大阪大学教授の石黒浩氏など、各分野の有識者に未来予想図を聞いた。
「2050年の“買う”」というテーマで話を伺ったのは、「テクノロジーでお金と経済のあり方を変える」を企業理念として、時間取引所「タイムバンク」や送金サービス「pring」などを手がけているメタップスグループ代表の佐藤航陽氏。
テクノロジーの進化に伴い、消費体験が目まぐるしく発展する現代だが、この先にある「買う」とはどのような行為になるのだろうか。
データ化できるものはすべてが通貨
──キャッシュレス決済など、私たちの消費行動を取り巻く環境が大きく変化しています。
私たちは今、現物の通貨を「ありがたいもの」として捉えていますが、お金のデジタル化が進めば進むほど、その感覚が薄れていって、より気軽に使うようになるでしょう。友達にメッセージを送ったり、SNSの「いいね」を押したりするような感覚でお金がやり取りされて、流動性が高まっていくと思います。
──「買う」という意識が希薄化するのですね。
ロールプレイングゲーム(RPG)の世界の中でお金を使うような感覚が、現実の世界に近づいてくるのです。そして、仮想通貨みたいにいろんな通貨ができて、国家の枠組みを超えた多様な経済圏の中でやり取りされるようになる。
SNSの「いいね」やフォロワーの数は容易に想像できると思いますが、これからデータ化できるものはすべて通貨の役割を担っていくでしょう。その価値をきちんと証明できることも重要で、グーグルやアマゾンのようなプラットフォーム、もしくはブロックチェーンのような改ざんできない技術によってデータの信頼性が担保されていくと思います。
──今では想像しがたいもので、将来は通貨の役割を果たすものの例を挙げるとするなら、何があるでしょうか。
私たちがやっている「タイムバンク」もその一つでしょう。絵を書く時間や、漫才をする時間、コンサルティングをする時間といった具合に、その人が得意としていて価値を発揮できる時間をお金に換えて、取引所の内で売買する仕組みですが、今度は時間が本当の通貨になって、実際の社会でモノやサービスを直接買うことができるようになるかもしれません。
例えば、レストランで自分の時間を払って食事を摂る。すごく優秀な人だったら、1秒が500円と高額になるので、10秒あれば高級ステーキを食べられます。その人から時間を受け取ったお店側は、価値がさらに上がると思ったらずっと持っていてもいいし、売却してもいい。
──価値をつけられる得意領域さえもっていれば、将来は「買う」ことができるということですね。
そうです。通貨自身がただ使うものからつくる対象に変わっていきます。今までは、お金をつくるなんて考えもしなかったですけれど、これからはどんな経済圏のなかで、どんな価値に通貨の役割をもたせるのかを自分で選ぶことができる。ブロックチェーンのような技術があれば誰でも簡単につくれちゃうわけですから、造幣局や中央銀行が必要ない経済圏が現れてもおかしくない。このような社会に変わるには、15年もあれば十分だと思います。