全人類総生活デザイナー時代
──例えば、我々はどんな日常を送ることになるのでしょうか?
複数のコミュニティーに属する魅力の虜になった人、例えばAさんは普段は東京のIT企業でバリバリ働き、週末は温泉地の仲間とお土産品を売っているかもしれないし、宇宙で友達とゴミ拾いをしているかもしれない。ここでポイントになるのが、どのコミュニティーも「簡単に入れて、簡単に抜けられる。そして複数所属するのが普通」という点です。
定年退職してから田舎で別の人生を歩み始めるセカンドライフとも違う、別の人生を並列してもつデュアルライフは、人間の生活の質や精神的な豊かさを格段に向上させると思うんですよ。デュアルと言わず、3つでも4つでもいいかもしれない。
ただし、都会と地方の両方に納税して、住民としての義務と権利を得ていることが大事だと僕は思っているので、政府が複数の住民票を持ってもいいよ、と言わないとこれはなかなか成立しませんけどね(笑)。
──ちなみに、2050年に人はどんな家で暮らしているのでしょうか?
住環境も一変します。建築素材も変わっていくでしょうから、自分のデザインで簡単に一時的に住める家をパパッと作って、また、すぐに壊すことができる。つまり、いつどんな場所でどんな家に住むか、各人が決めることができる「全人類総生活デザイナー時代」の到来というわけです。こうなると「過疎」という概念もなくなります。
──なるほど。衝撃の展開ですね。
現代社会において我々は大きな機械の中の小さな歯車、あるいはビッグデータの中のチップのように感じることがあるかもしれません。これは「いつも操作される側」という意識です。でも、そう遠くない未来、人生のあらゆることが自分で選択できるようになる時代がやってきます。そう考えると、なんだかワクワクしてきませんか?
やまぎわ・じゅいち◎1952年東京都生まれ。霊長類学者・人類学者。2014年より京都大学総長。『ゴリラからの警告「人間社会、ここがおかしい」』(毎日新聞出版)など著書多数。