PC画面上で物語が進む「search/サーチ」に映画の未来を見た

映画「search/サーチ」より


PC画面だけで如何に物語が展開されていくかは、実際に観てもらわないと実感できないとは思うが、とにかくホラーのような都合良い異常現象などは登場せず、意外なラストにも唐突感はなく、ルールをきちんと遵守した、至極、真っ当なミステリーとなっている。そのあたりが、巨匠ヒッチコックと比較されるところかもしれない。

監督は、インド系アメリカ人で、弱冠27歳のアニーシャ・チャガンティ。この作品が初めての劇場用映画となる。南カリフォルニア大学で映画を学び、23歳のときにGoogle Glass(メガネ型インターネット端末)で撮影した短編映画が、ユーチューブで100万回以上再生され、それが認められグーグルのCM制作などに携わる。

「search/サーチ」の誕生は、チャガンティが、本作でも共同で脚本を執筆したセヴ・オハニアンに大学で出会ったのがきっかけ。映画制作のクラスで、当時、指導助手をしていたオハニアンが、チャガンティの才能に驚いたという。「彼はいつも一番いいアイデアを出していた。ポジティブなエネルギーと好奇心にも溢れていた。すでに、将来、凄い存在になると感じさせるものがあった」とオハニアンは振り返る。

チャガンティとオハニアンは、パートナーとして脚本と映画制作を始めるが、この2人に注目したのが、前述のベクマンベトフだった。「アンフレンデッド」で試みた全編PC画面でのストーリーテリングを、さらに高度で深いものにしようとしていたのだ。


監督と主演のジョン・チョー

「彼らはぼくに素晴らしいピッチをしてくれた。この新しい表現の素晴らしさと可能性を完全に理解していた。そのうえストーリーとキャラクターに対する優れたセンスも持っていたんだ」と、ここに若きフィルムメーカー2人と経験豊かなプロデューサーのコラボレーションが成立した。

iPhoneで撮影した映画も

近年、映画の表現手法に関して、次々と斬新な試みを敢行する作品が登場している。例えば、iPhone5sに特殊レンズをつけて撮影された「タンジェリン」(ショーン・ベイカー監督、2015年)は、スマホの機動性が躍動する映像を生み出している。

全編が一人称視点で描かれたアクション映画「ハードコア」(イリヤ・ナイシュラー監督)。この作品は、スタントマンの頭部に固定されたウェラブルカメラで撮影されており、臨場感が半端ない。

「ヴィクトリア」(セバスチャン・シッパー監督、2015年)というドイツのクライム・サスペンスは、全編138分がワンカットの長回しで撮影されており、映画の中の時間と観客の時間がほぼリンクしている(ワンカット長回しは、今夏、話題を集めた日本映画「カメラを止めるな」でも最初の37分間のゾンビドラマで試みられている)。

ちなみにアメリカでは、「アンフレンデッド」の続編「アンフレンデッド:ダークウェブ」が、「search/サーチ」に先立つ1カ月前の、7月20日に公開され、前作と同じ低予算にもかかわらず、第1週の週末興行収入365万3035ドル(約4億円)を上げ、ランキングでも初登場で第9位を記録した。

19世紀末にフランスのリュミエール兄弟が発明したシネマトグラフによって誕生した映画。その後、技術の進歩が進み、トーキー、カラー化、3Dと表現の幅はどんどん広がっていった。とくに20世紀末に登場した高性能のデジタルカメラは、さまざまな新たな可能性を映画にもたらしている。

単に技術的試みで終わってしまう作品も多いのだが、「search/サーチ」のように、若きフィルムメーカーたちが、新しい表現手段を自家薬籠中のものとして、これまでにない「物語」を紡ぎ出す可能性も秘めている。映画の未来は、ますます楽しみなものになっている。

連載 : シネマ未来鏡
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文=稲垣伸寿

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