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──なるほど。「社会的な記憶」が今より保存されるようになるから「死」についての再定義が必要になる……。

「ロボットの葬式」が当たり前に

きっと2050年には人間だけでなく「ロボットの死」も身近にあるはずです。

なぜならロボットは他の機械と同じく、実は10年もすれば部品が摩耗して壊れてしまうからです。壊れたロボットを修理するより、買い替えたほうが安いのは今のパソコンと同じ。

しかし古くなった仏像をゴミ箱に捨てる人は誰もいないように、人間そっくりのアンドロイドも簡単には捨てられないのです。というのも、以前僕が壊れたロボットを捨てようとしたら、多くの人が「可哀想です!」と訴えてきたのです。

それからはロボットの最期には弔いの儀式を行う必要があるのではと考えるようになりました。2050年には生活をともにしたロボットの葬式をすることが、普通になるかもしれません。

──ロボットの葬式。たしかに必要かもしれませんね。「死」と一口に言っても、いろいろあるんですね。

そもそも生物にはなぜ「死」がプログラミングされているのでしょうか? 

進化においては死は重要な役割を果たします。個体が死ぬことなく再生を繰り返していれば、その種が進化することはなくなりますが、「弱い個体が死に、強い個体が生き残る」ことで、種全体としては生き延びる確率が高まるという戦略を生物はとってきたのです。

そう考えると、現在の人間についても「これ以上の進化はないのだろうか」という疑念が湧いてきます。たしかに今の地球上では、人類はもっとも進化した生物かもしれません。しかしそのことは、人間がこれ以上進化しない、ということを意味しません。そもそも現在の人類は解決できない問題を多く抱え、未だもがいているわけですから。

──今の人類からさらに進化する、そんなことが起こり得るのでしょうか?

「より進化した人類」が生まれてくる可能性は充分にあります。そうなると、数万年前に地球から消え去ったネアンデルタール人のように、現生人類の多くが消えていっても不思議ではないのです。

──それも恐しい話ですね。「より進化した人類」とはどんな存在なのでしょうか?

私は人類の次の進化の鍵を握るのは「技術」だと考えています。猿からヒトへの進化では「道具が使える」ことが重要な因子だったと言われていますが、現代の人類にとって「技術」の重要性は高まる一方です。

スマホやパソコン、ドローンや飛行機といった高度な技術を当たり前に使いこなす社会で暮らす人々と、そういったものを使わない人々の暮らしは、すでにまったくの別のものとなっています。

──たしかに、そうですね。

病気の治療ひとつとっても、その社会に抗生物質が行き渡っているかどうかで、平均寿命そのものが大きく違ってくるのです。そう遠くない未来の社会では、今よりはるかに進化した義手や義足、人工臓器、脳とつながるAI技術、ゲノム編集……といった技術が当たり前に使われるようになっているでしょう。そこに適応できるかどうか、その差は「進化」と言っていいほど大きくなる可能性があります。

ただし懸念されるのは、そうしたテクノロジーの恩恵を、社会の多くの人が受けられるかどうかです。ごく一部の富裕層だけが、テクノロジーを特権的に享受できるような社会になったとすれば、人々の間で今後「進化」のスピードに、劇的な差が生まれる可能性があります。

──それは一つのディストピアですね。

さらに想像力を膨らませて、「数十万年後の死」を考えてみましょう。

もしかすると人類は身体の完全な機械化によって死を克服し、地球の外で暮らしているかもしれません。そうなると人間は肉体では定義されなくなって、物事の概念を理解するとか、哲学を持つという精神的な活動のみが大事になると思います。その世界では裕福であるかどうかは問題にならないかもしれません。


いしぐろ・ひろし◎1963年、滋賀県生まれ。 大阪大学教授で人間酷似型ロボット研究の第一人者。2007年、英Synectics社の「世界の100人 の生きている天才」で日本人最高位の26位に選ばれる。

取材・文=大越 裕 写真=佐々木康

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