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2018.10.23

やがて、コンテンツは「テンセント」に呑み込まれる


楊晨(ヤンチャン)・閲文集団オリジナルコンテンツ総経理によると、今年3月末時点で所属するネット小説家は690万人、投稿小説数は1000万作を超えている。月間アクティブユーザーは1億9150万人。うち1億7900万人がモバイルユーザーで、スマホでの利用が圧倒的に多い。

17年に読者が支払った購読料は前年比73%増の34億元(約554億円)に達した。課金したユーザーは平均で月間1110万人。課金ユーザーの平均支払額は22.3人民元(約360円)とマイクロペイメントが浸透していることがわかる。なお、版権ビジネスも好調で、17年には100作品以上で版権利用契約が結ばれたという。また同年の版権売り上げは、3億6620万元(約60億円)となった。

楊は、閲文集団は単に原作の供給源にとどまらないと強調する。

「閲文集団は今、コンテンツ生成プラットフォームからIP運営プラットフォームへの転身を進めている。IP開発(ネット文学からドラマやゲームへのマルチメディア展開)初期にあたっては強力なコンテンツ力という優位を持つ以外に、『中国オリジナル文学ランキング』などを通じて事業者にサジェストする。またファンのデータを分析することによって、どのIPを選ぶか、さらにはどのような制作やマーケティングが適しているかをサポートしている」

テンセントが得意とするユーザーの分析をエンターテインメント分野にまで生かそうという発想だ。その上で、作家と共同で版権を管理し、IP開発と利益の最大化に努める「IP共同運営パートナー制度」「スター作家化戦略」といった施策を導入したほか、実写化やゲームが完成した暁には、その広告宣伝にも閲文集団とテンセントのリソースを使って関わっていくという。

「つまり、閲文集団はIP開発の全過程に深く関わっている」と楊は胸を張る。

なぜ、ネット文学がIP戦略で大きな役割を果たしてきたのか。それはクリエイターの数が膨大で、多種多様な作品が生まれる“実験場”だからだ。たった1人の作家によって執筆されるため、制作コストが安い。そのため大量のコンテンツを送り出し、人気を得た作品だけが生き残るという「多産多死」のモデルが採用できる。

このモデルは日本のマンガと共通している。ネット文学ほどではないにせよ、マンガも比較的低コストで制作できるジャンルだからだ。無数の作品が連載されるなかで、人気となった作品がアニメ化され、果てにはドラマ化、映画化していく。低コストのメディアで消費者の反応を見て、より強力なIPに育てていくエコシステムが完成している。
 
テンセントもネット文学だけではなく、IPのタネとしてのマンガに注目している。そのプラットフォームがテンセント動漫だ。同サービスは12年からスタートしているが、集英社、KADOKAWA、講談社、小学館という日本の大手出版社と提携し、日本のマンガを正規版で読めるプラットフォームとして注目を集めた。主要4社と契約を交わしているのは中国ではテンセントのみだという。現在はMAU約1億2000万人という大型サイトへと成長している。
 
興味深いのはテンセント動漫の変化だ。かつてはアクセスすると、トップページには日本マンガが大々的にフィーチャーされていたが、現在では中国国産マンガに切り替えられている。日本マンガの輸入によってユーザーを集める時代は終わり、中国国産IPを育成する段階へとステージが変わったという。

ネット文学と同様に一般ユーザーのマンガ投稿を受け付けており、投稿者数は5万人超。作品数は2万6000タイトルに達している。プロにあたる契約マンガ家の数も800人を突破。アクセス数が1億を超えた作品は500タイトルを超えている。
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文=高口康太 イラストレーション=アレクサンダー・ウェルズ/フォリオ

この記事は 「Forbes JAPAN 世界を変える「30歳未満30人の日本人」」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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