三児の父であるVentilla氏は、学校によって“質”に大幅な差がでる米国の教育システムに疑問を持っていた。またIT業界のど真ん中で、技術がその差を埋めるわけではないという現実を見る。テクノロジーがもたらすのは、「全員が同じ授業を聞き、同じ問題を繰り返すことができる」という便利なツールに過ぎず、むしろ、アクセスの差が格差を生んでいた。
この状況を打破しようと、Ventilla氏はベイエリアの複数のベンチャーキャピタルから200億円もの出資を取り付け、Alt Schoolを立ち上げる。同校のミッションは、最良の教育を最多の生徒に届けること。従業員の3分の1が技術者、3分の1が教育者で、残りの3分の1がセールスや人事だという本部は、さながらITベンチャーのような雰囲気だ。
生徒が学びの主体を握るメソッド
Alt Schoolでは、Plan(学習計画)、Engage(能動的な学び)、Evaluate(評価)、Understand(学習成果やプロセスの理解)、という4つのサイクルを、生徒が主体となって教師とともに設計していく。と言っても、教師が年間の学習計画をつくり、シラバスも教師が描くのが当たり前の私たちにとっては、すぐにピンと来ない。
実際に画面を見ながらデモしてもらうと、なるほど、通常は教師が決めるような内容も生徒が画面で選んで行く。例えば、英文学のクラスであれば、一定の習得スキルは学年によって定められているが、そのためにどの本を読むのかは生徒が自分の関心を元に教材の中から選ぶことができる。
AltSchoolウェブサイトより
計画段階から、認知能力だけでなく非認知能力においても、「こういうスキルを身につけたい」ということを予め生徒と教師が話し合っておき、そのうえで行う評価も、まずは生徒が自己採点し、それを元に教師と話し合いながら、次学期以降の計画に役立てて行く。当然のことながら、成績表もこれらの蓄積によって、認知能力と非認知能力の双方を網羅した評価が記される。
サンフランシスコのLab Schoolからは既に60人ほどの卒業生が出ているが、こうした成績表を元に、全員が第一志望か第二志望の学校へ進学していると言う。
米国では、シカゴ大学が初めてSAT(日本でいうセンター入試)を入試の項目から外したり、50年来数値での成績表をつけていない学校「St. Ann’s School」が話題になるなど、いわゆる成績表で判断しない評価方法が注目を集めている。「生徒が学びを創り、自らの成長を測り、生涯学び続ける主体性を身につける」サイクルを生み出そうとするAlt Schoolの試みも、その流れにあるといえる。