韓国では、その「鳥の巣問題」が鉄道会社にとって大きな悩みとなっていた。韓国鉄道公社が、昨年の1年間だけで処理した鳥の巣の数は8200個。2018年は、9月時点ですでに6000個以上にのぼる。
もはや日常茶飯事というか、ルーティンワークというか、とにかく鳥の巣を発見・駆除する作業は、韓国鉄道公社にとって欠かせない業務リストのうちのひとつとなっていた。より詳細には、1日に1回以上、作業員が電車の運転室に乗り込み、目視で鳥の巣の有無を点検してきたのだという。
そのような状況を解決するため、韓国鉄道公社は人工知能を使ったシステムを導入することを決定した。電車の運転室に取り付けられた機器で撮影した映像を人工知能で分析し、鳥の巣など危険要因を判断してメンテナンス担当者に情報を伝えるという仕組みだ。
システムをテストした結果、精度はすでに95%を超えており、来年2月から京釜線など主要路線を運行する車両に搭載される。試験運用が済み次第、残りの路線に順次拡大される計画だ。複雑な技術を使っているわけではないようだが、企業や人間の悩みを解決する人工知能のユースケースとして、特筆すべきもののひとつとなるかもしれない。
駅や電車はもっと安全に?
ところで、日本では「運行の省エネルギー化」、「ロボットによる案内の自動化」などの話題が報じられているが、「人工知能×電車」「人工知能×駅」というテーマはまだまだ掘り下げられるような気がする。
例えば、「落下事故・および自殺防止」「落下物の早期発見」などだ。駅にセンサーやカメラを取り付けておいて、線路に落下した対象を人工知能で分析、関係各所に通報することは技術的にもはや難しくないだろう。
最近、人間の表情から自殺の兆候を読み取る技術が開発されたとの発表が相次いでるが、「表情検知」「行動検知」などの技術を組み合わせれば、防止に役立てることだって充分可能な気もする。たまに、駅のホームで酔っ払ってフラフラしている人を見てヒヤっとすることもあるが、そういったケースも人工知能で検知できるはずである。急病人の発見も、いわずもがなである。
事故の予兆や結果がビックデータとして集積されていけば、対策を立てるのにも役立つ。長期的に見れば、各駅に最新式のホーム柵を設置したり、大量の警備員を雇うよりも、人工知能を使ったソリューションを導入していく方が、経済合理性が高い気もする。
主要都市沿線で通学・通勤する人なら共感してもらえると思うが、朝夕のラッシュ時にほぼ毎日何かしらのトラブルが起き、ぎゅうぎゅう詰めの満員電車が遅延したり止まったり。韓国の「鳥の巣問題」ではないが、乗客にとって遅延によるストレスはルーティンと言っても過言ではない。
その人々のストレスが生みだす日本の経済的損失の総量を数字に置き換えたら、おそらくとんでもない額になるはずである。リモートワークの拡充など働き方改革もさることながら、ちょっとしたアイデアと試みで旧来のインフラを整え、働き手に優しい社会をつくってほしいと切に思うこの頃である。
連載 : AI通信「こんなとこにも人工知能」
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