医療、航空、産業機器などの電源装置を手がけてきたメーカーが目指すのは、非接触給電システム「パワースポット」による食卓のイノベーションだ。
「壁からコンセントをなくしませんか」
ベルニクスの代表取締役社長・鈴木健一郎がデザイナーの田子學にそう話しかけたのは今から3年ほど前のことだ。
鈴木から一通り話を聞いて田子は思った。
「よくよく考えてみれば、住宅建築や生活様式は変わっているのに、電源は昔から壁の隅にあるコンセントのままで変わっていない。しかも、ずっと進化しなかったことの罪深さに電源装置のメーカーが気づいた。この発想は面白い」
プラグを探して挿す。そんな電源の概念を大きく変える非接触給電システム「パワースポット」の開発は、二人のこんな会話から始まった。
ベルニクスが田子と開発したパワースポットは、「人が集まるテーブル」にワイヤレスの給電システムを持ち込むものだ。名前の由来は「パワーが集まる場所」。電源に人が集まり、コミュニケーションが生まれ、新たなパワーを生む。目指しているのは創造的な未来だ。
インターフェイスは「置いて回すだけ」。送電側となる「Home」の上に、厚さ7mmの受信コイルが内蔵された「器」を置く。それを左右に回すことでジャイロセンサーが働き、電気の出力量を調整していく。
プロトタイプとして作られた「MUG」ではコーヒーやお茶、「CHOCO」では日本酒などを好みの温度に温め、照明器の「LUX」では光の明るさを調整できる。Wi-Fi等の通信を使いホームネットワークに接続されることを想定している。
「CHOCO」は木と銅のコラボで心地よい質感。圧縮木材を匠技で2mmの厚さにすることに成功した。
「単なる電源のワイヤレス化ではなく、人間がストレスを感じずに快適な時間や空間をシェアするためのものです。朝起きてコーヒーを入れた『MUG』をパワースポットに置けば、AIスピーカーやホームネットワークと連動して自動的にカーテンが開き、音楽が流れる。そんな新しい文脈も生まれてくるはずです」(田子)