──SDGsに紐づく社会的な課題に対して、若い世代が敏感なのも興味深いです。
若い世代を中心に消費のスタイルが変わってきていますよね。シェアリングエコノミーが注目されて久しいですし、高価なブランドに憧れを抱くのではなく、オーガニックやヨガ、瞑想、マインドフルネスに注目が集まっています。単純な消費で満たされる世界ではない、とみんなが思い始めています。
自分の食べているものや着ているものが、どのような想いから、どのように生み出されたのか。その本質に目を向けて、より持続可能なライフスタイルを築こうという流れが高まっています。
今の時代の若い人たちは利他的で意識が高く、大きな視点で物事を捉えていると感じます。ボランティアをする人もどんどん増えていますし、寄付市場も伸びています。まさに施しあう、支え合う時代になってきましたね。
今回聞いたお話だけでも、SDGsの1、2、3、5、10、11、16、17の8項目が仏教と重なり合っている。
──ライフスタイルの基準となる「幸せ」の再定義が進んでいるということですね。
「幸せとは何か?」というのは人類の普遍的なテーマだと思うのですが、それを研究しているハーバード大学で、“幸せとは他者との良い関係性によって得られる”という結論が出ているそうです。普段、私たちは他者との関係性で心が満たされることを意識していません。
東日本大震災では多くの尊い命が奪われ、今も人々の心に傷を残しています。そんな中で、人と人とは支え合わないと生きていけないということの再確認は、唯一得られたものであったのかなと思います。
そういった意味でも、仏教の「施しあう、支え合う」という価値観は共感していただけるでしょうし、宗教の本当の役割とは何なのかを、皆さんが真剣に考える時代に入ってきたと実感しています。ここ数十年、日本における仏教は、葬儀をやるくらいの認識でしかありませんでした。でも本来、仏教というのはすべての人々に門戸を広げて、地域社会を支えるコミュニティを醸成する役割を担っています。
──お寺にはどのような機能があったのでしょうか。
例えば社会福祉の根幹はお寺にありました。寺子屋に代表されるように、子供たちを預ける場所でもありましたし、障がい者や社会的弱者などを分け隔てなく受け入れ、誰もが集える場所というのがお寺の魅力でした。
「ダイバーシティーが大切だよね」「LGBTなどのマイノリティの声も大事にしよう」などと言われるようになった今、すべてを受け入れる仏教の懐の深さが社会にフィットするのではないかと思います。