世界38カ国、800万人が愛読する経済誌の日本版


「50歳を超えたら、自分が本当に欲しいもの、必要なもの、諦めないといけないものを明確にしないといけない。これらのことがクリアになれば、決断は難しくない。私は自分のオフィスで死にたくはない。ビーチサイドで死ぬほうがいい。私はキャリアのために生まれてきたのではなく、さまざまなことを経験し、挑戦するために生まれてきたのだから」

中国をはじめとする多くのアジアの国々では、高齢でも引退せずに働き続けることを美徳とする風潮が強い。マーはそれに対して、「80歳になっても90歳になっても働けというが、私はそれが必要だとは思わない」と明確に否定した。

マーは、「引退は後戻りではない」と強調する。「私は会社から引退するが、それは私の人生にとっては大きな一歩だ。私はもっと興味があること、教育や環境、起業などに取り組む時間ができる」と、引退後の生活を心から楽しみにしているようだった。



教師とアントレプレナーに共通するもの


ジャック・マーは大学卒業後、1988年に生まれ故郷の杭州で英語教師としてのキャリアをスタートさせたが、MBAを取得するなどの、ビジネスパーソンとしてのトレーニングを受けた経験はない。そのマーが率いるアリババグループが、なぜこれほどまでの業績を成し遂げられたのか。

マー自身も、長らく自問してきた問いだという。「答えはたったひとつ、成功に導いた私のバックグラウンドが教師だったことにある」と言う。教師として修得した、人に教えて育てる「技術」が役に立ったという。そこから、中小企業のプラットフォームをつくり、社会に貢献し、従業員のキャリアパスを育てたことが、グループの成功へとつながった。

彼には、マーケティングのスキルも、テクノロジーの知識もなかった。家族から受け継いだ莫大な資産があるわけでもなかった。教師としてやったのは、生徒を選び、教育し、成長させること。アリババグループでの仕事も、タレントを探し、トレーニングして、成長させることだったという。

アリババグループは、マーとその教え子ら18人が共同で1999年に創業。中小企業向けの取引サイトで頭角を現し、ソフトバンクなどから100億円以上の巨額出資を受け、消費者向けECサイトの「タオバオ」や「アリペイ」を設立し、「Yahoo!」を傘下に収めるなど急成長を遂げた。

苦楽をともにしたメンバーたちによって、インターネットバブルも乗り越え、グループを育て上げた。マーは「私が最も誇りに思っているのは、ビジネスモデルではなく、われわれの優秀な人材が集まった組織をつくりあげたことだ」と胸を張る。

後継者に指名されたCEOのダニエル・チャンについては、「我々のタレント組織のトップのレイヤーにいる」と説明。さらに、チャンだけでなく、「第5世代まで、リーダーの候補者の準備がある」と語り、「人材の層が厚いことがグループの強さになった」と話す。

文=成相通子

PICK UP

あなたにおすすめ

合わせて読みたい