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2018.10.22

クラフトビール戦争に終止符? 夢の「オリジナルビールがつくれる」プロジェクトが始動


──どのような未来をイメージされていたのでしょうか?

山本:これからのビールには、2つのファクトが含まれるようになると思っています。まず、1つめは「ビールは料理になる」ということ。つまり、今後さまざまなビールのレシピがオンライン上で公開されるようになるでしょう。そうなると、料理と同じような感覚で“つくるもの”として捉えられる時代になっていきます。

日本でビールと言えば、ピルスナーが主流です。しかし世界では国ごとや地域ごと、そしてブランドごと、つくり手ごとに多種多様なビールがあります。クラフトビール熱が高まるにつれて、個性的なビールも増えて、レシピの種類はいまや数え切れないほどです。

今後、世界的なトレンドとして、ビールのレシピやアイデアのシェアが広がっていき、一般の人でもビールをつくりたいと思う機運が高まっていくことは間違いありません。実際、テクノロジーの進化によって「Pico Brew」などの自家醸造ができるミニマムなハードウェアも登場し始めています。これからはプロではない人も含めて、「わたしはこれが好き!」という情熱をもって、ビールをつくれる時代になっていくのではないでしょうか。



注目すべきはビールの仕上がりだけではなく、つくり手のこだわりとストーリーに惹かれてファンが集まってくること。この点はキッチハイクの世界観と共通します。

2つめは「ビールはコミュニティになる」ということ。僕はビールだけでなく、ビールが創り出す文化、暮らしが大好きです。創業時、世界各国の地元の家を訪ねて、家庭料理を食べて交流する旅をする中で、世界中のビールを飲みました。パブ、大衆酒場、屋台、そして家。アメリカやオーストラリアでは、一般家庭でつくられた自家製ビールでも乾杯しました。人がつながるところには、必ずビールがあったんです。

キッチハイクは、「食でつながる暮らしをつくる」コミュニティサービス。食をきっかけに人がつながっていく、つくり手と食べ手がフラットにつながる、暮らしが豊かになる。これまでは料理が中心でしたが、HOPPIN’ GARAGEによって、これからはビールを通してもっとつながれる食コミュニティへ拡張できると確信しました。

飲み手、買い手、つくり手の間にある壁を壊していきたい

土代:社内的に、今回の取り組みの一丁目一番地は「CtoCコミュニティ」を活用したサービスを展開し、そこを起点に一人の消費者のアイデアを実際に商品化に繋げるなど、本格的なユーザーイノベーションによる新たな価値創造をスタートさせることにあります。

世の中にはビールが好きで、ビールを通じて創造性を発揮したいと考えている人が多数いる、と考えています。これは弊社が立ち上げた「日本ビール文化研究会」が実施する「日本ビール検定(通称:びあけん)」の有資格者数が1万2000人以上いる事実から推測できると考えています。他方、サッポロビール社内でビールの製品開発に携わる人間は数十名ほど。

つまり、社外にはビールを通じて創造性を発揮したい人が社内の数百倍を超える人数が存在していることになります。我々メーカー側から彼らとの接点を広げる、つまり「もっとお客様に近づく」ことで、これまでになかった新しい発想が生まれ、またお客様に還元される循環をつくっていきたい。そう考えています。

HOPPIN’ GARAGEが実現したい世界は、自分が飲みたいビールをつくれる世界であり、その結果としてビールを「飲む人」「売る人」「つくる人」がフラットな関係として再構築されることにあります。それにより、ビールに関わる人たちの仕事や生活はもっと面白くなる、と思っています。



我々が生業としている「ビール」は別に無くても生活が成り立つもの。だからこそ、その存在意義は生活に潤いや豊かさを与える、もっと平たく言うと生活を面白くするものであるべきです。しかしながら、現状を振り返るとビール需要は下がり、どことなく閉塞感が生まれ、面白さから遠ざかっているように感じています。

その要因の一つとして、お客様にあたる「飲む人」「買う人」が一番といった雰囲気や、「つくる人」がお客様にリアルに近づくこともなく、やもすると今売れているものを造らなければと思い込み、自分たちのクリエイティビティを発揮することを躊躇し、その行為自体に喜びを感じにくくなっていることが挙げられると感じています。

それを解決するソリューションのひとつとして、いわゆるプロダクトアウト的な発想でビールをつくるクラフトメーカーがあると思いますが、どこまでいっても「飲む人」「買う人」と「つくる人」の間には壁があり、構造的なブレークスルーにはなっていません。

今回のプロジェクトを通して、ビールを「飲む人」「売る人」「つくる人」がフラットな立場でお互いのことを語ったり、それぞれの立場を入れ替えたりすることで、もっとお互いのことを知ることができれば、その構造に変化が生じるはず。その新しい構造の中でこれまでにない価値が生まれ、共感するコミュニティの中で循環し経済が回っていく。そんな世界を実現できればと思っています。
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写真=小田駿一

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