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世界38カ国、800万人が愛読する経済誌の日本版

ネスレ日本 代表取締役社長 高岡浩三

日本がどうして“失われた20年”と呼ばれる状態になったのか、これまで誰も教えてくれなかった。コウゾウに指摘されて、やっとふに落ちたよ」

コトラーはマーケティングの世界的権威で、高岡がネスレコンフェクショナリーのマーケティング本部長時代に展開した「キットカット」の受験生応援キャンペーンに注目し、著書で紹介した。その縁で、コトラーは2013年、約10年ぶりの来日を果たし、ネスレ日本創業100周年事業で講演を行った。

コトラーは壇上で「日本は昔、イノベーションが優れた国だった」と発言。それに高岡はこう反論した。

「日本はリノベーションが得意だが、イノベーションは不得手。1980年代までは、安い人件費を背景に、アメリカが生み出したものの機能を良くして経済成長しただけです。その証拠に、バブル経済が崩壊した途端、世界的なヒット商品を何も生み出せなくなった」

コトラーは高岡の指摘に深くうなずき、冒頭のように感嘆したのだった。

イノベーションが不得手なはずの日本で、高岡は新しいマーケティング手法を次々と成功させている。

受験生応援キャンペーンは、九州で1〜2月にキットカットの売り上げが伸びることから着想を得た。売り上げ増の理由は「きっと勝つとぉ!」という験担ぎ。そのことを知って、全国でキャンペーンを展開した。

「マーケティングとは、顧客の問題を解決すること。顧客の新しい問題は、“新しい現実”が連れてきます」

受験生応援キャンペーンなら、新しい現実は、過酷な受験戦争。そこから生じる受験生や家族のストレスが、顧客の新しい問題。あとは解決策を導くだけだ。

この考え方は、ネスレ日本が生んだ最大のイノベーションである「ネスカフェ アンバサダー」でも実践された。職場にコーヒーマシンを無料貸与して、アンバサダーと呼ばれる職場代表者が専用のコーヒーカートリッジを定期購入。1杯約30円の代金を同僚から回収する仕組みだ。

「バブル崩壊前まで、職場では無料でお茶やコーヒーが飲めました。しかし、経費削減で職場に自動販売機が置かれるように。これが新しい現実。大しておいしくないコーヒーを、100円以上出して飲まなくてはいけなくなったのが新しい問題。それを解決するために考えたのが、ネスカフェ アンバサダーでした」

アンバサダーは販売代理店と違い、ボランタリーベース。無報酬では誰もやりたがらないという声もあった。だが北海道でテストしたところ、1週間で1500人の応募があった。

「3カ月やっても辞める人がいませんでした。アンケートを取ると、続ける理由の1位は『職場のみんなにありがとうと言われることがうれしい』。マズローの欲求5段階説で最上位である自己実現欲求を取り入れた、初のビジネスモデルだと言われています」

ネスカフェ アンバサダーは2018年3月現在、40万人。これだけの人が無償で、かつ継続的に動いてくれる仕組みはほかに類を見ない。

text by Kei Murakami photograph by Taro Karibe

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