「テレビの前に人がいるか」をVI(ビューアビリティ・インデックス)値、「人の顔がテレビに向いているか」をAI(アテンション・インデックス)値と呼ぶ指標で評価。米国では主要放送局が導入し、日本でも放送局や広告会社、広告主の大企業をはじめ70社以上での活用事例がある。
中野慎三が代表取締役社長を務める伊藤忠テクノロジーベンチャーズは、16年10月に同社へ出資し、支援している。
中野:出会いは、2016年7月。投資先のスポットライト・柴田陽さんからの紹介でした。彼が同社を売却した後、投資家として米国に行った際に、劉さんをつないでもらった。投資をした決め手は、ディスラプティブ(破壊的)・テクノロジーだということ。TVision Insightsのサービスを利用すれば、テレビの前に誰がいるか、その表情、目線まで画像解析でわかる。
例えば、テレビの前に座っていても、ずっとスマートフォンをいじっているのでは意味がないわけです。視聴率は、米国では「カレンシー」と呼ばれ、共通通貨のように扱われていますが、それに画像認識技術とAI(人工知能)を駆使したデータを用いた「視聴質」という新しい指標を加えられる。
劉:僕らは米マサチューセッツ工科大学(MIT)で起業したのですが、それ以前に上海でデジタル広告代理店をしていた。その際に、テレビCMに携わった経験がこのビジネスの原体験です。
クライアントが締切日3日前に、「白いクマのキャラクターが流行っているから、使ったらいい」との一言で全部内容が変わった。なぜいいかもわからない、結果が出たのかもわからない。テレビCMは多額の資金で制作しているのに効果が正確にわからない。クリエイティブのセンスも重要ですが、データも同様に重要ではないか、と。
僕らのビジネスモデルの優位性は、広告の本来の価値であるアテンションをデータ化している点だと思います。メディア接触時間が限られる中で、どれだけアテンションを奪えるかが広告ビジネスの本質。テレビの前に座っていても、スマホで遊んでいたらアテンションではない。そのデータを作ればいいと最初から構想はできていました。
とはいえ、日本展開の際には、広告主である大企業からは「聞いたことがない企業だから」と門前払いだった。それを中野さんたちが営業をサポートしてくれた。伊藤忠さんの紹介となると話は聞いてくれます。すると「面白い」となるわけです。
中野:あらゆる業界に顧客がいる、それが総合商社のいいところ(笑)。劉さんをはじめ同社は、日米で同時立ち上げができて、成長し続けている稀有な企業です。それに日本出身、米国で起業し、資金調達の際にリード投資家が米国VCだというのもグローバルなスタートアップである証しです。今後は、世界基準の新しい「カレンシー」をつくることを目指してほしいですね。
劉:今後は、日米以外にも、まず英国、インドで展開予定です。世界で業界構造が同じなので、グローバル展開が極めて進めやすい。僕らは最終的には、メディアの売買のトランザクションの中で「視聴質」を使うことをスタンダードにしたい。米国では、口説いてお金さえ払えば、どれだけすごい人でも雇える。だから日本よりも簡単かもしれないですね。優秀な人を口説けさえすればいいわけですから。
なかの・しんぞう◎伊藤忠テクノロジーベンチャーズ代表取締役社長/パートナー。1989年、伊藤忠商事入社、2000年に伊藤忠テクノロジーベンチャーズを立ち上げ後、ITOCHU Technology Inc.などを経て、15年4月より現職。主な投資先は、センシンロボティクス、Crevo、キュア・アップ、InstaVR、SentinelOneなど。
りゅう・えんほう◎TVision Insights Inc.CEO/Co-founder、TVISION INSIGHTS創業者・取締役。東京工業大学工学部卒、米マサチューセッツ工科大学(MIT)MBA。マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、上海にてデジタル広告代理店游仁堂を創業。2014年6月TVision Insightsを設立し、現在に至る。