あるいは、完全に合法な大麻栽培工場をつくるべくローンを組もうとしても、上記のような「いつ、突然に連邦法が入り込んでくるかわからない」という危惧から、銀行は工場への融資はしない。非合法薬物製造に加担した金融機関は、連邦法では金融免許の取り消しだけでなく、刑法上、民事上での大きなリスクを負う。
さらには、幹細胞のうちの胚性幹細胞による再生医療の研究では、連邦政府は「研究のために受精卵を殺すことになるとして非倫理的だ」として研究を認めず、研究費を打ち切りにした。それだけにとどまらず、研究を違法としていない州の研究機関であっても、連邦政府からの(別のプロジェクトに対する)補助金をカットするというプレッシャーのため、研究はままならない。
加えて、州の専管事項である自動車運転免許証の発行も(連邦免許証なるものはこの世に存在しない)、独自のスタンダードで本人確認をして、独自のデザインと独自の道路交通法で免許を付与してきた。
しかし、全米各地の空港では、連邦施設であることを理由に、身分証明書として運転免許証は認めず、連邦政府のスタンダードを満たした本人確認ができる証明書でなければ通さないというように法律を変えた。これは空港に入りたければパスポートを持ってこいということなのだが、これを持たないアメリカ市民も少なくない。
この法律は、2020年からの施行となったので、この「脅し」に負け、妥協するかたちで、各州は、連邦政府スタンダードの運転免許証と、各州スタンダードの運転免許証と2種類発行する体制に移行しつつある。前者を「リアルID」と呼ぶことになったが、では後者はリアルじゃなくてフェイク(偽物)なのかと、あいかわらずネーミングセンスの悪さに笑うしかない。
トランプが選ばれた理由もココにある
このように、中央政府など信用できないとしてイギリスから離脱し、戦争までして独立して建国したアメリカだが、連邦政府は予算と権限を肥大させる戦争に勝ち続けている。これがアメリカ文化を大きく変化させてきている。
ケネディ大統領は就任演説で「国があなたのために何をしてくれるかではなく、あなたが国のために何ができるかを考えようではありませんか」と、アメリカ伝統のパイオニア精神を市民に訴えた。しかし自己肥大化していく現在の連邦政府を見ていると、この国に頼らないパイオニア精神を促されることほど、皮肉で矛盾していることはない。
トランプが大統領に選ばれた背景のひとつもここにある。選挙民から見て、連邦政府の自己肥大を止めうる候補者が他に誰もおらず、ベテラン政治家ではなく、「政治家や連邦政府なんてロクなもんじゃない」と悪口を垂れ流す人物にしか、肥大は止められないだろうと考えたのだ。
ちなみに、みなさん、万が一にも29ある合法州で大麻を興味本位で吸うことはやめたほうがいい。みなさんは合衆国に入国する際に、連邦政府に対して非合法薬物の非摂取を約束して入国しているのだ。どこで摂取してもその行為は移民法違反となり、逮捕または強制送還の対象となり、二度とアメリカに入国できなくなるので。
連載 : ラスベガス発 U.S.A.スプリット通信
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