人類の幼年期の終わり[田坂広志の深き思索、静かな気づき]


しかし、これら「天才」と呼ばれる人々の姿は、そのまま、我々人間の中に眠る可能性を示しているのではないか。我々誰もが持っている潜在的能力を顕在化させたとき、いかなる才能が開花するかを教えているのではないか。

我々誰もが持っている潜在的能力を顕在化させたとき、いかなる才能が開花するかを教えているのではないか。

では、なぜ、その可能性が開花しないのか。その潜在的能力が顕在化しないのか。

その理由は、先ほど述べた我々の意識にある。「自分には不可能だ」という自己限定の強い思い込みにある。それが、我々の能力を抑え込んでいる。

例えば、地面に30センチ幅の2本の線を引き、この道の上を真直ぐ歩くよう、誰かに言えば、健常者なら誰でも、その道を踏み外すことなく歩ける。

しかし、もし、それが、断崖絶壁の上に架けてある30センチ幅の丸太橋であったならば、我々は、「落ちたら死ぬ」という恐怖心と、「こんな橋、絶対に渡れない」という自己限定によって、一歩も進めなくなる。本来持っている能力は、無残なほど委縮してしまい、その力を全く発揮できなくなる。

逆に、近年、若い世代のアスリートが、野球、サッカー、ゴルフを始め、世界の舞台で活躍しているのは、技術の向上だけが要因ではない。彼らが、「日本人は、海外では通用しない」という自己限定の意識を持たないことが、大きな要因であろう。

そして、こうした深層意識の自己限定が、我々の能力を委縮させ、その開花を妨げるのは、肉体的な能力だけではない。精神的な能力も同様である。

もし、そうであるならば、我々人間が、子供の頃から自分の可能性を十全に信じることを教えられ、自己限定の意識に抑圧されることなく生きる方法を教えられたならば、何が起こるのか。そして、最先端の深層心理学によって、潜在意識のマネジメント技法を教えられて育ったならば、何が起こるのか。

アーサー・C・クラークが『地球幼年期の終わり』の最終章で描いたように、我々大人の世代が、想像を超えた可能性を開花させる子供たちの姿に、驚嘆する時代を迎えるのではないだろうか。

そして、そのとき、人類は、幼年期を脱し、前史の時代に終わりを告げるのだろう。

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文=田坂広志

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