何のために働き、闘うのか? 非情なまでに信念を貫くロビイスト

『女神の見えざる手』でヒロインを演じたジェシカ・チャステイン(Getty Images)


この作品の面白さはまず、相反する利益を求める団体と互いに競合するロビー活動の夜打ち朝駆け、騙し騙されのプロセスと、物語の各細部が最後のどんでん返しへと収斂されていく仕掛けが、見事に一致していることだ。

そして、真っ赤なルージュが印象的なクール・ビューティ、エリザベス・スローンというヒロインの思い切った人物造型。


ヒロインを演じたジェシカ・チャステインと監督のジョン・マッデン(Getty Images)

年収はおそらく100万ドル以上のトップ・ロビイストらしく、高級ブランドの洗練されたスーツや時計、15センチもあろうかというピンヒールで武装、頭脳は常にフル回転で相手の裏を掻くため先の先まで予測し、大胆な計画を立て、時に独断専行も自分を囮にするのも法すれすれのヤバい行為も厭わない。

すべてに優先するのは「勝利すること」、それが彼女の口癖だ。

二人の女性の味方が消えていく…

これまでの闘うヒロインなら、ちょっと息抜きする場面があったり、悩みを聞いてくれる家族や恋人、あるいは心の拠り所になる子どもがいたりしたものだが、エリザベスには皆無である。

眠気止めの薬を常用してまで睡眠時間を削り、食事はリーズナブルでいつでも開いている中華料理店一択、性欲は高級エスコートサービスで満たすという、徹底したワーカホリックぶり。そこまでになった過去の「トラウマ」めいたものが、因果として一切描かれないところは、逆に清々しい。

銃規制法案賛成陣営の側につく小さなロビー会社に移ったことで、何十倍もの資金力をもつ古巣の会社と、賛成/反対を決めかねている議員たちを奪い合うことになったエリザベス。彼女はさまざまな女性団体からの寄付金を集める一方、盗聴チームを秘密裏に雇って「敵方」の動きを探っていく。

目的のために手段を選ばぬそのストロングスタイルは、シュミット以下のスタッフたちに時折不安をもたらす。彼らにはエリザベスの思考の全貌がわからない。彼女はあまりにもキレるために、仲間の中ですら秘密を抱え込まざるをえず、孤独になってしまうようなタイプの女性なのだ。

新しい部下エズメの履歴から、彼女がある銃乱射事件の生存者であることを突き止めたエリザベスは、渋るエズメを説得してメディアに露出させる。いかにもあざとい戦略を鉄面皮で押し進める彼女だが、冷たい横顔に僅かに滲むダークさには思わず魅入られてしまう。

エリザベスの計画は当たって、エズメへの同情と共に銃規制法案賛成に世論は傾いてくるが、有名になったエズメは法案反対派の男に狙われたところを銃を携帯していた男に救われ、今度は銃の必要性が叫ばれるという、実に皮肉な結果となる。

元会社に残った部下ジェーンとは目下対立関係、新たな部下エズメにも去られ、味方だった同性を二人まで失うという痛手の構図。更にジェーンが、過去の案件でエリザベスの「上院倫理規定の違反」を証明できると提言し、エリザベスは聴聞会にかけられることに。
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文=大野 左紀子

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