視野を自在に操れば、発想力が高まっていく

解析キットに唾液を入れて送るだけで、未来の病気に関する情報がわかる。遺伝子解析サービスを手がけるジーンクエスト代表の高橋祥子氏に、日常生活で意識していることを語ってもらった。


大学院時代に遺伝子解析ベンチャーを起業しました。現在は生活習慣病などの疾患リスクや体質の特徴などを調べられる遺伝子解析サービスを個人様向けに提供し、そこで蓄積されたデータをお客様の同意を得て匿名化したうえで研究に役立てる、という両軸で事業を展開しています。
 
将来を決める要因として、環境はやはり大きかったと思います。私は父も姉も叔父も従兄弟も祖父も全員医者という家系に育ち、普段から身体や生命についての話が身近な環境に育ちました。ただ、病気になった後に治療するよりは、病気の予防など、もう少し幅広い視点で生命科学を研究しようと。

そこで大学院では糖尿病の研究をしていたのですが、研究のスピードを上げるためにはヒトのデータがたくさん必要で、「もっと大勢の人を巻き込むにはどうすればいいか」を考え、たどり着いた答えが起業でした。
 
その際に大変だったのが時間のマネジメントです。博士課程と会社の両方が中途半端になったら元も子もない。それで「この1時間は選択した◯◯をやる」と最初に決めて迷わず実行することにしました。そうすると、高い集中力が引き出せるのです。おかげで会社も無事に続いていますし、博士課程も最短で取ることができました。

悩んでいる時間はムダだから、いまから何をするかの選択に覚悟を持つ、というのは何かを成し遂げるうえで非常に重要です。
 
研究も経営も、クリエイティブマインドの醸成は欠かせません。私は今年から月に一度新しいことを始めることを課しました。1月はブログを、2月はマネジメントゲームというボードゲームを、3月は講演などで喉を傷めずに喋るためのボイトレを、4月はジョギングというように。あとはありきたりですが、読書と人との出会いも大切にしていて、両方ともバイアスをなくすことを意識しています。

つまり「この本にはこういうことが書いてあるのだろう」「この人はこういうことを言うのだろう」という勝手な憶測をしないということ。常にフラットな状態で外からの刺激を受容すると、ちゃんとした血肉として身につきます。研究の世界は正解がないですし、発想の枠組みも自由さが求められます。物の見方は研究を通してだいぶ変わったかもしれません。
 
普段の生活で大事にしているのは、視野を自由自在に調節することです。例えば、ものすごく辛いことが起こったとき、出来事そのものをじっと見ていると、その辛さからは一向に抜け出せません。視野の狭さは思考停止に陥るだけで、問題を解決してくれないのです。だからその事象を、世界規模で見たらどうか、宇宙規模で見たらどうかというふうに視点をずらします。自由に視野を操れるようになると、課題解決能力がすごく上がるし、発想力もつくという実感があります。

もうひとつは、当初の夢を忘れないこと。私の場合は生命の神秘や謎を解き明かし、人や社会のために役立ちたいという夢があります。日々に忙殺されると忘れがちになりますが、自分の活動の原点であり原動力である夢が何か、要所要所で思い起こすことはとても有意義だと思います。
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構成=堀 香織 写真=yOU(河崎夕子)

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