市来氏とともにまちづくりに取り組む人、協力体制のもと新たに起業する人は数多くいる。その中には、移住者や市外在住社も多く含まれている。
「熱海でビジネスをするのに、地元か地元でないかにはこだわっていません。移住者でなくてもいい。今は観光と移住の間のグラデーションがあり、二拠点生活という選択肢もあります。熱海で何かをやりたいという想いがあれば、それでいいと思っています。そこに地元の人が何らかの形で関われる。それが理想的です」
普段は、自身が運営するnaedocoで仕事をしている市来氏。
観光客で賑わいを取り戻している熱海だが、実際そこでビジネスを始めるメリットはどこにあるのだろうか?
「熱海は全国に知れ渡る抜群の知名度がありまし、都心からのアクセスもいい。それをフル活用してほしいですね。課題の多い場所ですが、その分チャンスも多い。挑戦したい気持ちのある人にとっては、とてもやりがいを感じられる地域だと思います。最近では、企業からのアプローチも増えています。地元と連携しながら、ビジネスの実験の場として使ってもらうことで、新しい事業が生まれることにも期待しています」
経済的に自立した持続可能な地域に
熱海の中心部を再生するという市来氏の当初の目標は徐々に達成されつつある。これからまちづくりを続けてうえで、彼は最終的に何を目指すのか聞いてみた。
「『熱海銀座公園化計画』というのを考えています。歩行者天国どころか、通り全体を公園のようにしてしまう。それが直近の現実的な目標です。さらに言うと、2030年に熱海を独立させたい。決して冗談ではありません。熱海を経済的に自立した持続可能な地域にしていきたいんです。他に依存せず、暮らしが成り立っていくくらいに強い街にしたいと思っています」
市来氏が自著でも書いているが、熱海は歴史的に、外から来た人が街の魅力を作ってきたという側面がある。実際に1年間住んでみての実感だが、熱海には古くから文人墨客が居を構えていたせいか文化レベルが高く、また、観光地であるためか他所の人間を受け入れるマインドを持った住民も多い。
市来氏はあるイベントに登壇した際にこう語っていた。「地元のお祭りで地元住民も移住者も分け隔てなく楽しんでいる様子を見て、喜びを感じました」
熱海銀座商店街を歩行者天国にして実施される「海辺のあたみマルシェ」は、出店希望者が殺到する人気イベントになっている。
日本有数の温泉観光地を舞台に、内外が入り混じり、市来氏のようなまちづくりを担う人間が触媒となって化学反応を起こす。その生成物がこれからさらに熱海を活性化していくことだろう。
ただ海を見て、釣りをして、温泉に入りたいと思って熱海に移住した筆者だったが、市来氏の活動を目にして、“熱海で何かやらねば”という気持ちが呼び起こされつつある。それも熱海に移住して思いがけず得られた収穫のひとつだ。
連載:移住ライターが見た「熱海の内側に帯びる熱」
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