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2018.10.15 17:00

2030年に「熱海を独立」させる 地元キーマンが起こす化学反応


昔と違って、今の旅行者は旅館に泊まるだけでなく、旅行で何が体験できるかを求めている。そのためには、街そのものに魅力がなくてはならない。

そうした考えのもと、当初は熱海の人に地元の魅力を知ってもらうべく、地元体験交流ツアー熱海温泉玉手箱、通称「オンたま」を主催。レトロな街並みや老舗の喫茶店など、他にはない魅力があることを伝え、“熱海には何もない”と思い込んでいた住民の意識を変えることを目指した。


地元の魅力を再発見する「オンたま」。レトロな飲食店街や80歳代のマスターがいる老舗喫茶店を巡った。(c)Hamatsu Waki

その後、今あるものを活用して街を再生するリノベーションまちづくりを開始。空き店舗が目立っていた目抜き通りの熱海銀座商店街にターゲットを絞り、賑わいを取り戻すべく、NPO法人「atamista」を設立、続いて「株式会社machimori」を創業した。

まちづくりという公共性の高い事業とはいえ、補助金に頼らず、あくまでビジネスとして持続できるものであることを目指したという。その手始めとして、2012年に「CAFE RoCA」をオープン、その後の2015年9月には、旅行者に熱海の街を本当に楽しんでもらうスペースとして、「guest house MARUYA」をオープンした。しかしCAFE RoCAは初めての飲食業とあって、経営は苦労の連続。結果的に利益が出せず2017年3月に閉店した。

続いて、熱海で新たなビジネスを育むため、長らく使われていなかった店舗2階にコワーキングスペース naedocoを作る。さらに、熱海銀座商店街に活気を取り戻すと同時に、工芸作家や農家、飲食店に新たなビジネスチャンスを探ってもらうことを狙って、商店街を歩行者天国にして開催する「海辺の熱海マルシェ」を企画した。

CAFE RoCAだった場所は、現在、シェアテナントとして活用しており、ジェラート店とカフェが入居している。市来氏が活動を始めた頃に比べ、熱海銀座商店街の空き店舗はもう残りわずか。市来氏の地道な取り組みの効果は確実に表れていると言えるだろう。


Rocaの奥には東京のイタリアンレストランが手がけるジェラート専門店「ラ・ドッピエッタ」。手前は市来氏との出会いをきっかけに熱海へ移住した女性が開業した「カフェ・バール・クァルト」。(c)Yoji Tanaka

熱海に根ざしたビジネスが街を強くする

市来氏へのインタビューでまず聞いてみたかったのは、彼が著書「熱海の奇跡」の中で語っていることだ。

「創業支援によって2030年までに熱海に新しい企業を100社以上誕生させ、売り上げのトータルで数百億円以上の産業を作る。これが私の目標です」。いくら好調な熱海とはいえ、かなりハードルの高い目標に思えるが……。

「決して実現不可能な目標を掲げているわけではありません。熱海にはまだまだ伸び代がある。宿泊業、飲食業といった観光産業だけでなく、介護、教育、福祉、林業、エネルギー、アートなど、多岐にわたる分野でビジネスの可能性があると感じています」と市来氏。

ただし、チェーン店など大きな資本が入ってくることが必ずしもいいとは考えていないという。「景気が悪くなると撤退してしまう大企業よりも、小さくてもいいから熱海に根ざしたビジネスを展開してくれる企業が増えてくれると嬉しいです。小さくても緊密なネットワークがあることが、生態系として一番強いのではないでしょうか」

地元出身者以外が熱海でビジネスをする際、不動産の契約がネックになるというのは住んでいるとよく聞く話だ。オーナーが不安がって貸したがらないのだという。しかし、市来氏によると、そんな状況も徐々に変わってきているそうだ。

「確かにそういう傾向はありましたが、今では熱海が衰退した時のことを地元の人たちが共有できているため、不動産オーナーの意識も変わってきていると感じています。これまでの実績を生かして、熱海でテナントを借りるサポートをするようなこともこれからやっていきたいと思っています」

1階の空き店舗が残り2つとなった熱海銀座商店街。だが、市来氏はまだこのエリアにこだわっていきたいという。

「まだ2階、3階のテナントが空いているんです。これからはそこも埋めていきたい。以前に比べて、誰が見ても変わった、後戻りしないくらい安定している、そう思われるくらいのレベルに商店街を充実させていきたいですね。熱海には他にも再生すべきエリアがあります。まだまだ色々なことをやれる余地がある。我々は熱海銀座商店街に注力していますが、新しい団体ができて、別のエリアを盛り上げてもらうのは大歓迎です」
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文=高須賀哲 写真=Hamatsu Waki、Yoji Tanaka

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