宝物を失くした子供に何を教える? 日常でできる金融教育

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最低限身に付ける金融リテラシー

金融庁の金融経済教育研究会が発行している『最低限身に付けるべき金融リテラシー(知識・判断力)』には4分野・15項目があり、そのうちの1つに「資産形成における分散の効果の理解」という項目がある。

しかしここではまず、リテラシーの横に「知識・判断力」と書かれていることに注目したい。金融教育を語る際、“金融リテラシーの向上”という言葉がよく使われるが、筆者は「知識」を本当の意味で身に付けたり、緊急事態に直面した時に問われる実践的な「判断力」を身に付けるためには、どうしても時間がかかると考えている。

まずは本やメディアから情報を取得し、情報の内容を表面的に理解する。そして、その情報に基づいて行動し、行動に対する結果を受けて本当の意味で情報を体感する。それを繰り返していく中で、耳や目から入った情報は知識に変わっていく。また、緊急事態に直面したり、未知の体験をしたりすることを繰り返すことで、実践的な判断力がついていく。

つまり、「情報」を「知識」に昇華させ、実践的な「判断力」を身に付けるには、時間がかかるものなのだ。子供の頃からお金について学ぶ機会のない日本において、大人になってから金融リテラシーを身に付けようとしては、身に付くまでに何度かの失敗を繰り返すことになってしまう。それが詐欺被害や、不要な金融商品の購入などになって表面化しているのだろう。

分散に限らず、やはり早い段階から情報を与え、大人になるまでに試行錯誤を繰り返すことで、不安なく独立して社会で生きていけるようになるのではないか。

リスク低減の為の分散という考え方

今回の出来事を、もう一歩引いて考えてみよう。モノと時間を分散することで、何が起きたのだろうか。答えは「リスクを低減することができた」である。

リスクという言葉は日常会話の中ではネガティブな意味で使われることが多い。「それはリスクが高いよ」と言えば、何か悪いことが起きる確率が高いことを指しているだろう。しかし、実際の意味は、リターンの幅が狭まることをリスクが低いという。

これまでに使った例で考えてみよう。1つのカゴに全ての卵を盛って運べば、1回で運び終わる(リターンが大きい)が、カゴを落とせば全ての卵を失うことになる。しかし、いくつかのカゴに分けて運べば、運び終わるまでに何度か往復しなくてはいけない(リターンが少ない)代わりに、仮に一つカゴを落としてしまったとしても、全ての卵を失うことはない。オモチャも同じことだ。

このように、子供の日常には大人が学ぶような金融リテラシーのエッセンスが数多く隠されている。子供と一緒に暮らしながら、生活の中で一緒にお金について学んでいってはいかがだろうか。

余談だが、なくしたはずの袋は後日、無事見つかった。

【連載】0歳からの「お金の話」
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文=森永康平

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