グロービス経営大学院大学 准教授/声楽家


しかし、もっと大きな拍手を受けたのはユナイテッド航空のムニョスCEOだった。そもそも、会場に集まった人たちは、「なぜあのCEOが、このテーマで登場するのか」と思っていたはずだ。そんな会場の空気のなか彼は「会社の業績ばかり聞かれるテレビ出演とかと違って、自分のことを話すのは楽しいね」と軽口を叩きながら語り出した。

実は、彼もなかなかの苦労人だった。9人兄弟で、高校に行くまで大学というものがあるとは知らなかった。「高校のカウンセラーが、大学のことを教えてくれた。しかも両親にも、大学とは何か、なぜ私が行くべきかを説得してくれたんだ。カウンセラーの彼女が、出願も含めて何から何まで手伝ってくれたおかげで大学に行けたんだ」。

そして、こう続けた。「ウィリアムズさんも言っていたけれど、メンターなど外部の人の助言は、ほんとうに重要だね。私の場合はこのカウンセラーが人生を変えてくれたんだ」



「人に歴史あり」と会場の誰もが思っていたところに、司会者が「2017年の事件以来、企業文化に“思いやり”を掲げているようですが」と鋭くムニョスに切り込むと、彼は企業文化改革への取り組みについて、慎重に言葉を選びながら次のように話し始めた。

「弊社は年間15億人のお客様を90から100か国に運んでいる。いまこの瞬間にも数千の飛行機が世界中を飛んでいる、そのような企業だ。だから、お客様とのやりとりのひとつひとつが安全性やセキュリティの問題に直結する。そのため、どうしても規則に従うのが第一という文化になりがちだと思う」

彼の話を要約すると、安全やセキュリティのために、「まだご搭乗できません」とか「席は替えられません」「フライト変更はできません」と言わなければならない。ときには「ハトを客室に持って入りたい」などとんでもないリクエストもあるけれど、それに応えるのも難しい。乗客第一を考えるほどに、ノーと言うことが増えてしまうのだ。

となれば、「それは駄目です」とお客様に言うときは、「正しいことをしている」という強い思いをもって対処しなくては、精神が持たない。そのため秩序とプロセスばかり先に考えるようになり、人間らしい発想よりも、企業として規則を優先するようになってしまうということらしい。

確かにユナイテッドは、ここ数10年の間に、なんども経営危機や破産といった事態に直面し、乗客をよりとにかく安全に安く運ぶことを優先してこなければいけなかったのかもしれない。

ムニョスは続ける。「いま、共に働いている仲間の多くは、たいへんな時期に退めることなく、一緒に働いてくれている人たちだ。彼らの心にもう一度灯をともすためには、“規則に忠実”なところを逆手にとって同じようにやることが必要だと思った」。

そこで同社は新しい「規則」を設けることにした。4つのコアとなる規則を決めて、対従業員同士でも、対乗客でも、同じように扱うと決めたという。

文=武井涼子

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