チップの額とサービスの質は比例しない
チップの研究でアメリカの権威であるコーネル大学のマイケル・リン教授も、サービスの質とチップの額はほぼ比例しないという結論を出している。つまり、良いサービスをする人は、自己のキャリアアップや昇進など、お客の出すチップとは別のことを考えて、サービスを工夫しているというわけだ。
さらに、いまだに有色人種のサービス人が、白人よりもチップの取り分が少なくなるという研究もあり、チップが人種や性別などの職場差別を生み出す元にもなるとも指摘している。
つまり、「チップご無用」の方針をとると、ネットでの顧客レビューが一時的に低下し、優秀なサービス人も失うというリスクを抱えるが、しかし反面、職場差別がなくなり、サービス人のおもてなしの創造性が向上するという二律背反の側面が出現するということなのだ。
おそらく、正論はマイヤーにあり、しかし現実の経営においては、当面、現状維持に旗が上がりそうだ。断言できるのは、「チップご無用」は、4半期ごとに利益の進捗をチェックされる「雇われCEO」なら、絶対に選択しない戦略ということだ。
マイヤーは、別途、ニューヨーカーバーガーチェーンの「シェイク・シャック」を創業し、日本(六本木やみなとみらいなど10店)を含む世界にも進出して大成功し、上場までさせているので、その利益があってこそ可能な「チップご無用」の持久戦だという穿った見方もできる。
東京・六本木にある「シェイク・シャック」の店舗(Ned Snowman / Shutterstock.com)
「ウォール・ストリート・ジャーナル」は、理想論を掲げるマイヤーを、ウォルト・ディズニーやスティーブ・ジョブズになぞらえ、「至高の戦略か最悪の決定か、時がやがて証明する」と評している。
連載 : ラスベガス発 U.S.A.スプリット通信
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