「質問力を評価するAI」が米教育現場に登場

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「あなたの質問ってひどく退屈ね」

20代中盤の頃だったろうか、新宿・ゴールデン街のとあるバーで素敵な女性にそう切って捨てられた時、とてもやりきれない気持ちになったことがある。そして気づかされた。「質問力」はとても大事だなと。

相手の本音を聞き出したり、自分の目標通りに話の流れを誘導するためには、コミュニケーション能力の中でも質問力が一際重要となる。本質をついた質問は、相手、もしくはディスカッションに参加するメンバーの曖昧な感覚を言語化することも促し、対人関係を円滑にしてくれる。

質問力は「聞く力」「問う力」とも言い換えることができる。ビジネスシーンでも特に重宝される能力のひとつだ。成功を成し遂げた多くの起業家たちが持つ「課題を発見する眼力」の源泉には、社会に対する質問力がある。

米シリコンバレーでは、その質問力=聞く力を養うための人工知能(AI)プログラムが、教育課程に導入されているとの興味深い話題があった。サンタクララにあるストラットフォード中学校では、人工知能をベースにした質問学習プログラムが活用されている。プログラム名は「スマイル」(SMILE:Stanford Mobile Inquiry based Learning Environment)だ。

実際にスマイルは、どのように使われているのだろうか。

学生たちはまず、指定された物語を読む。そして、物語に関連した質問をふたつずつ作成しスマイルのオンラインプラットフォーム上で全体共有する。続いて、学生たちは互いの質問にスコアをつけ、答えが分かる質問については回答を書き込んでいく。その後、スマイルが学生たちの評価内容を収集。分析後、各質問のレベルを5段階に分類する。

学生が作成した質問や評価はデータベース(DB)に保存されており、その後、各生徒の学習に活用される。教員側は、各学生の興味を質問から把握して、カスタマイズされた教育カリキュラムを練るという流れである。現在、スマイルはシリコンバレーの多くの学校で活用され始めている。

スマイルを開発したのは、スタンフォード教育大学院のポール・キム教授ら研究チームだ。キム教授は、アルベルト・アインシュタインの「重要なことは質問するのを止めないこと」という格言を引用し質問の重要性を強調。人工知能は、学生たちの質問に答える「教師」である一方、「採点者」であることもできると説明している。

個人的には、質問には質問する人間の好奇心が宿っていることが多いとも感じる。質問力を養うAIには、対外的にコミュニケーション能力を磨いてくれるという一面とともに、内面的には好奇心を先鋭化させてくれるという効果がある。「好きこそものの上手なれ」という言葉があるが、人間の内面深化を促す教育や禅問答も、いずれ人工知能に代替されていく時代が近く訪れるのかもしれない。

連載 : AI通信「こんなとこにも人工知能」
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文=河 鐘基

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