マイクロソフトが「ホロレンズ」とMRで変える人々の働き方

(Photo by Chesnot / Getty Images)

MR(複合現実、Mixed Reality)の普及を目指すマイクロソフトは、ヘッドマウントディスプレイ「ホロレンズ(HoloLens)」用のアプリ2本をリリースした。同社は、マーケティングツール分野で競合するセールスフォースとの差別化も図りたい考えだ。

マイクロソフトは9月18日、統合型CRMソリューション「Dynamics 365」向けにAIやMRのアプリケーションを追加したことを発表した。新ツールは、既にシェブロン(Chevron)がテスト利用をしており、他の顧客向けには10月1日から提供を開始する。

マイクロソフトのサティア・ナデラCEOは、Dynamics へのAIやMRアプリケーションの追加で、「ソフトウェア業界の形勢を一変させることが可能だ」と述べた。今回発表されたMRアプリ「リモートアシスト(Remote Assist)」と「レイアウト(Layout)」は、ホロレンズを使って遠隔地にいる同僚とライブでつながり、設備の欠陥を確認したり、バーチャルな物体をリアルな空間に重ねてフィット感や外観を確認することができる。

シェブロンは昨年、マイクロソフトとクラウドサービスの利用で7年契約を結んだ。同社はリモートアシストの導入を進めており、レイアウトについてもこの数ヶ月でテストを行ってきた。

シェブロンは、世界中にある製油所に数百人もの専門家を派遣して設備点検を行っている。彼らは2時間余りの点検や修復のために数日を費やして移動することが多く、年間移動距離は50万キロにも達するという。

今後は、ホロレンズを装着してリモートアシストアプリを使うことで、遠隔地にいながら問題箇所を確認し、スカイプを通じて現地のスタッフに指示を出すことが可能になる。シェブロンは、レイアウトアプリのテストも行っている。同社のEd Mooreによると、ポンプなどの新しい部品はそれぞれ微妙にサイズが異なり、レイアウトを使うことでスペースにフィットするかを事前に確認することができるという。

MRが作業員の働き方を変える

シェブロンのチーフ・イノベーション・オフィサーであるBill Braunは、「我々の働き方を変えことになる。これはとても大きなことだ」と述べている。ホロレンズの価格は社員の出張費よりも安く、今後は大幅なコスト削減が見込める。

シェブロンによると、ホロレンズの導入とマイクロソフトとのクラウドパートナーシップとは直接関係がないものの、AzureやDynamics 365を使い慣れていたことが導入促進に役立ったという。Mooreによると、シェブロンはマイクロソフトとパートナーシップを締結する以前からホロレンズに関心を持っていたという。「ホロレンズこそが我々の考える真のAR(拡張現実)であり、競合は見当たらなかった」と彼は話す。

マイクロソフトにとって、シェブロンによるホロレンズ導入は、他の大手工業製品メーカーにMRの普及を図る上で大きな追い風となるだろう。「マイクロソフトは、これまでサードパーティのデベロッパーにアプリケーションやワークフローの開発を委ねてきた。しかし、今後は自社でアプリを開発し、企業が持つデータにより深く関与していく動きは自然な流れだ」とフォレスターのアナリストであるJ.P. Gownderは指摘する。

Gownder によると、MRの性能は既に実証されているが、MRが広く普及する上では今回のようなソフトウェアのイノベーションが重要だという。

マイクロソフトは、Dynamics 365とライバルのセールスフォースや他のCRMソフトウェアとの差別化を図るため、開発したホロレンズ用アプリケーションを新たに発表した営業、カスタマーサービス、マーケットインサイト用のAIツールと連携している。AIツールとホロレンズの利用によってDynamicsのデータ価値はさらに高まり、マイクロソフトとしては顧客にこれらのソリューションを連携して使用することのメリットを訴求できる。
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編集=上田裕資

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