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元テレビディレクターが行く、「世界の現場」

復興に向けて自身が開発した資材ブロックを抱えるパレスチナ自治区ガザ出身の女性起業家マジド・マシュハラウィさん(24)

勢いのある起業家を生み出す震源地と言われて真っ先に思い描く場所は、スタートアップ業界を牽引する最先端のシリコンバレー、もしくは東南アジアのテックを牽引する都市国家シンガポール、はたまた近年新たなイノベーション発信地として注目される中国・深圳-といったところだろうか。

だが、優れた起業家を生むのは、最先端の技術とアイデアが集結する煌びやかな街ばかりでは決してない。今、紛争や宗教の対立などで負の側面ばかりが報道されがちな途上国から、新たなイノベーションを起こす若き起業家が続々と生まれ始めている。

今回は、イスラエルによる境界封鎖で「天井のない監獄」とも呼ばれるパレスチナ自治区ガザ地区から生まれた女性起業家に注目したい。

マジド・マシュハラウィさん(24)。祖父母の代にパレスチナに移住を余儀なくされ、”パレスチナ難民”としてガザ地区で暮らしてきた。パレスチナでは大規模な戦闘が相次ぎ、多くの建物が破壊された。しかし、再建に必要な資材が不足しており、未だ復興への道は遥か遠い。

そんななか、マジドさんが着目したのは、ごみ同然の焼却灰だ。ガザ地区では、コンクリートが「軍事施設や地下トンネルの建設など攻撃用に転用される」としてイスラエル側から搬入が制限されるため、質が悪く高価だ。大学で土木工学を専攻したマジドさんは、この“逆境”に目を付け、大量に排出される灰から低コストの資材ブロックを生み出す技術を試行錯誤して開発した。

『グリーン・ケーキ』と名付けたそのブロックは、環境に優しく、軽くてコストも安いことから、大規模な戦闘が数年おきに起きるガザにおいて、復興を支える屋台骨として注目されている。


マジドさんが試行錯誤の上、開発した資材ブロックは焼却灰を再利用して作られ、低コストで環境にも優しいことから“Green cake”と名付けられた

「保守的なガザというコミュニティで、若い女性がビジネスをすることはとても難しいけれど、私たちは自分たちがやるべきことをやらなければなりません」

物腰柔らかで、まだあどけない表情も時折見せるマジドさんだが、起業家としての思いは強く一貫している。

まさに、そこで生まれ育った人間でしか分からない、ガザの人々が真に必要としているものを低コストで開発するそのビジネスアイディアは、今世界中のメディアからも注目を集めている。

BBCやCNNがマジドさんの特集を放映したほか、中東カタールのテレビ局・アルジャジーラでは、彼女を「未来のノーベル平和賞受賞者か」と評したほど、今やアラブのスタートアップ界では知らない人はいないというほど若きアイコンとなっている存在だ。ちなみに、「未来のノーベル平和賞受賞者」と大々的に打ち出されたことに対して、マジドさん自身は謙虚にはにかむ。

「本当は、担当記者の方には内緒でと言ってお話ししたのですが…(笑) でも、事実です。私は、ノーベル平和賞を受賞するような開発を今後手掛けていきたい、それが私が歩むべき道なのです」最後は強い調子でそう断言した。

事実、パレスチナでイノベーションを起こしたいという彼女の思いはとどまるところを知らず、家庭用の太陽光発電キットを開発するなど、次なる新たなビジネスも立ち上げ始めている。燃料不足や電力供給の停止などから、1日3、4時間程度しか電気が使えないパレスチナにおいては、電力の安定受給は喫緊の課題だ。

マジドさんのビジネスの根幹にあるのは、決して派手で奇抜なアイデアではない。パレスチナの復興、そしてそこに暮らす人々のためのより良い生活の実現に思いを注ぐ姿勢は一貫している。

文・写真=海野麻実

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