マイケル・ムーア最新作に見る、ドキュメンタリー映画の限界

映画「華氏119」のロザンゼルス・プレミアに登場した、マイケル・ムーア監督(Photo by Michael Tran/FilmMagic)


スマホ全盛時代の若者たちの現実

そしてオバマ大統領は、演説の途中でわざと咳をし、グラス一杯の水を持って来させると、それを飲み干した。フリントの水は安全であるというパフォーマンスを行ったのだ。


スピーチの途中で水を飲むオバマ元大統領

(アメリカの希望の象徴である)オバマ大統領の言動を映したこの場面こそ、映画の最も衝撃的なシーンである。このような場面を通して、トランプが大統領に就任する以前から、国民は政府に絶望していたとムーアは主張する。トランプはアメリカを蝕む病の原因ではなく、あくまでも症状なのだと。

映画の終盤には希望も描かれる。フロリダ州高校銃乱射事件の生存者で、銃規制を求める若者の代表的存在となったエマ・ゴンザレスや、民主党下院議員予備選挙でベテランの現職を破った28歳のヒスパニック女性、アレクサンドリア・オカシオ=コルテスといった新世代の活動家たちに、ムーアは未来を託す。


銃規制を訴える人々によるイベント「March For Our Lives」でスピーチするエマ・ゴンザレス

もっとも10〜20代の若者の多くは、この映画を観ることはないだろう。社会に注意深い目を向ける若者は、映画でムーアが指摘する事柄を既に知っている。また、ジェイク・ポールなどのユーチューバーからトランプ大統領本人まで、大衆を扇動する術を持つ人が増えた今、ムーアの影響力はかつてよりも弱まっている。

ムーアがミシガン州知事の豪邸の庭にフリントの汚染された水を放つシーンが、皮肉にもその状況を物語っている。その姿は、誰もいない場所で向かい風に打たれながら放尿するかのようだ。

現代の若者は、ドキュメンタリー映画に数カ月前の出来事を教えてもらおうとは考えない。彼らは常時、情報を受け取り、自ら発信している。彼らにとって新しい情報はドキュメンタリー映画の中ではなく、スマホのプッシュ通知の中にあるのだ。

編集=上田裕資

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