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2018.10.04

日銀「33兆円過大計上」問題で見えた、貧困化する日本

投資信託の大幅な計上ミスが発覚した日銀


長期投資は根付いておらず、日本の個人投資家はひたすら株や投資信託を売り、喜んで外国人に所有権を移転したことになる。自分たちの国の資産である日本の会社を外国人に売り渡していた。かなりもったいない。
 
金融庁も、最近交替した前金融庁長官である森信親さんのもとに貯蓄から投資の流れを推進してきた。資産形成にはあまり役に立たない毎月分配型の商品を抑制して、より長期投資に資するような商品を扱い、「お客様第一の原則(フィデューシャリー・デューティー)」を推進した。
 
また、「つみたてNISA(積立NISA)」のような新制度を作り、資産形成層に投資を促す仕組みを作った。そして、訂正前の日銀統計であれば、その努力は実っていたはずだった。しかし、現実はマイナス成長である。これは金融庁の政策が間違っていたというよりは、むしろまだまだ足りなかったというのが私の見立てである。とはいえ、私も含めて業界の啓蒙活動などが足りなかったということであろう。
 
現金に傾斜した資産配分を続けていたら、株式や投資信託の保有比率が高い外国勢に対し、短期的にはともかく、長期的にはますます一人当たりの個人金融資産も差がつくだろう。つまり、日本人が相対的に世界の中で“貧乏”になるということである。
 
起きてしまったことは仕方がない。間違った統計は正し、現実を直視すべきだ。これは証券業協会、投資信託協会、金融業界はもちろんのこと、金融庁や政府もこのことを重大な問題と捉え、貯蓄から投資への流れに本気で取り組む必要がある。
 
投資の税制優遇はもちろんであるが、投資の必要性と投資のイメージもよくしなければいけない。30兆円もの資金を投資に回すのは非常に難しい。私も15年前にレオス・キャピタルワークスを設立し、東奔西走、身を粉にして働いてきたが、投資していただいている金額は15年間で1兆円がせいぜいだ。
 
これほどの重大なミスなのに、残念なのは、政府もメディアもことの重要性をよく理解していないフシがある。日本経済新聞のオンライン版で前田昌孝ヴェリタス編集部・編集委員が警笛を鳴らし、その後、毎日新聞で記事が出たが、重大視している媒体は少ない。これを読んだ読者諸賢も、このようなとんでもないことが起きていることを周りの人に伝えてほしい。
 
貯蓄から投資の流れは政府から業界まで「総力戦」で臨む必要がある。

連載:カリスマファンドマネージャー藤野英人の「投資の作法」
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文=藤野英人

この記事は 「Forbes JAPAN 世界を変える「30歳未満30人の日本人」」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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