ケネディ大統領が暗殺される中盤まで、「現在」と「過去」が交互に登場し、微妙に変化していくJFKとLBJの関係が、巧みに明らかにされていく。LBJがJFKを馬に例えて、「ショー用と労働用があるが、前者は見栄えはいいが働かない」と語るシーンが印象的だ。
また、いち早く大統領候補として名乗りを挙げたJFKに対して、自分が不人気であることを認知しているLBJは、党内きっての実力者であるにもかかわらず、出馬を躊躇する。「奴はまるで映画スターだ。見た目で負ける」と、LBJは賢明であるがゆえに、状況分析も確かで、支持者の反対を押し切り、結果的に副大統領候補として選挙を戦うことになる。
物語の前半、LBJの葛藤は、まさにケネディ暗殺事件とリンクしながら、密度濃く描かれていく。このあたり、監督のロブ・ライナーのワザは冴えわたっている。ケネディ大統領暗殺事件のスリリンングな展開と、回想で描かれる「次期大統領」の過去。この交錯が、すんなり観る者を物語に引きずり込んでいく。
ケネディ弟との葛藤
冒頭で「ドラマは葛藤である」という言葉を引用したが、実は、この作品でのもっとも注目すべきドラマは、LBJとケネディの弟で司法長官をつとめたロバート・ケネディとの「葛藤」だ。もとよりジョンソンを副大統領候補とすることにも反対だったロバートは、ことあるごとに彼と対立していく。
次の大統領選では、副大統領候補として指名されないのではないかと薄々感じていたLBJは、ロバートに率直にそれを質す。そして、そのシーンに重なるように、ケネディ大統領の暗殺の瞬間が描かれ、皮肉にもLBJが大統領に就任することになる。
兄を大統領のままホワイトハウスに帰らせたいので、就任の宣誓はワシントンに戻ってからと主張するロバートに、LBJはそれはできないと、これまでとはうって変わった決然とした態度で臨む。このふたりの地位が逆転するシーンは、アメリカ政治のダイナミズムも垣間見させ、この作品、最大の見どころかもしれない。
作品のちょうど半ばから、LBJは大統領に就任し、そこからはやや単調な展開にはなるが、やはり注目はロバートとの「葛藤」だ。すでに兄の在任中から次の次の大統領選を虎視眈々と狙っていたロバートと、現役大統領であるLBJとの駆け引きは、どこまで事実かはわからないが、ドラマとしての見ごたえはある。
この作品も、いま流行りの「実話に基づく物語」だ。
登場人物のほとんどが政府の要職にあった人物のため、どこまで脚色が許されているのかはわからない。すでに半世紀以上も前のことであるし、かなり自由に物語をつくっているのかもしれないが、一国の大統領を、これほど「葛藤」させる作品は、過去に類を見ないのではないだろうか。心理的「葛藤」など、ほとんど見せないどこかの国の大統領とは違って。
連載 : シネマ未来鏡
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