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2018.10.02

ミスター30% 長期運用成績トップのヘッジファンドを率いる男

ジョセフ・エデルマン(Chris Goodney/Bloomberg via Getty Images)


そして、俳優たちの労働組合で簿記係をしながらの二足のわらじで、1987年にニューヨーク大学で経営学修士号を取得する。彼が次に向かったのはウォールストリートだ。調査アナリストとして、バイオテクノロジー関連株に注力した。

エデルマンはその仕事に精魂を注いだが、首尾一貫した投資哲学を打ちたてるまでには至らなかった。さまざまな可能性に挑むことに精力を傾け、そのたびに考えを改めることを続けていった。

「株価はまだ上昇するだろうが、そこまで高騰するとは思えない。そういった銘柄をセルサイド(金融商品を売る側の立場)に立って宣伝するわけにはいかない」そんな言葉で、エデルマンはプルーデンシャル・セキュリティーズ社での日々をふり返る。

エデルマンがほんとうにやりたかったのは資金の管理だった。小さなヘッジファンドに職を得て、あるヘッジファンド・マネージャーと友人たちから350万ドルの資金調達ができたことをきっかけに、1999年にパーセプティブ・アドバイザーズを創設する。

彼は時運にも恵まれた。創業初年はバブルぎみなブルマーケット(強気相場)のさなかで、バイオテクノロジー関連株が102%の上昇という状況にあって、パーセプティブ・アドバイザーズは129%のリターンという成績を上げた。

心理学はきわめて重要だ」

強い追い風を受けて、エデルマンはそれ以来、小規模から中程度の規模に至るまでのバイオテクノロジー関連株を扱ってきた。生物科学や生命科学の博士号所持者をスタッフにそろえたが、昨今のウォールストリートではそういった秀才がデータ分析に当たることなど珍しくもない。

そんな中で自分が抜きんでているのは、心理学に精通しているところにあるのだとエデルマンは主張する。ヘッジファンドに「パーセプティブ・アドバイザーズ」という名前をつけたのも、そんな理由からなのだ(perceptiveには「知覚力のある、明敏な」という意味がある)。

「心理学はきわめて重要だ。知覚と現実が関わってくるからだ。バイオテクノロジー関連株の値動きを左右するのは、薬に確かな効能があるのかや、承認の見通しがあるのか、そしてコンセンサス予想以上に売れるのかといった要素だ」とエデルマンは言う。
 
安く買って高く売り抜けるという投資哲学をエデルマンは信じていない。「分析によって、その株式の価値が額面以上だと判断できた場合にのみ買い付けをし、逆に価値が額面以下とわかれば売却するだけのことだ。それにより、新たな分析や情報によって株価がさらに上がると判断できた場合には、一度売った株をより高値で買い戻すこともあり得るということだ」という。
 
エデルマンの投資手法で唯一無比である点をもうひとつ挙げるなら、それは商売敵のインデックスファンドやETFファンドと比較して、多様性を重視していることだ。一見デタラメな投資とも思えるかもしれないが、そこには確かな論理が働いている。「私は確率を基準にものを考えていて、それを持ち高の額で表現しているだけなのだ」と本人も言う。

彼の持ち高のおよそ80%がバイオテクノロジー関連銘柄だ。そして残りは、主として医療機器や専門医薬品関連の銘柄である。共通点を探るとすれば、どこかで科学につながっているということだ。
 
エデルマンのトラックレコードの多くが、過去20年間にヘルスケアやバイオテクノロジー関連の株式銘柄がすばらしいパフォーマンスを示してきた点に帰せられることは疑いもない。ただしエデルマンが、下げ相場でも気骨を示し続けてきたことはやはり確かなのだ。

2016年にはバイオテクノロジー関連株が21%の急下降となったが、6つの空売り持ち高が黒字となり、2つの大ホームランを記録したことにより、彼のファンドは手数料控除後の純益が3.8%となった。2017年には、NASDAQバイオテクノロジー指数においてパフォーマンスを倍加させ、21%のリターンを記録した。エデルマンのパフォーマンスが低下したのは、2008年と2002年の2年しかない。

「大きなリスクを取らないヘッドファンド・マネージャーにはなりたくない。そうなっても構わないというなら、今の私のようなやり方を選ぶ理由などないのだから」と、エデルマンは語ってくれた。

翻訳・編集=待兼音二郎

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