「IPO(新規株式公開)までの道のりには、地雷が1000個埋まっている」
企業を成長させていく過程で、経営者はたくさんの問題にぶつかります。ある先輩経営者は、冒頭の刺激的な言葉でその大変さを表現しましたが、10年、20年とあり続けている企業の大半は、新たな事業に果敢に挑み、怪我をしても立ち上がり、その怪我を治しながら困難を乗り越え今も存在し続けています。
でももし、今後ぶつかるであろう問題を、事前に知ることができたら──。ここ数年で、ベンチャー起業家を取り巻く環境は、大きく変化しました。なぜなら、アドバイスをくれる“先輩”経営者が増えてきたから。アドバイスをいただくことで、1000個ある問題のうち700個は事前に回避できると言われています。
私も、起業直後から、オンライン金融事業の起案者で、大手SNS企業の創成期をファイナンス面から支えた先輩経営者の方に助言をいただいていますが、彼からは、「創業者は絶対に曲げてはならないことがある」ということや、「少数民族になったつもりで、郷に入れば郷に従うことが大切」だと教わりました。その意味をここで詳しく解説することはできませんが、起業家の皆様の中にはうなずいている方も多いでしょう。
平時は、優秀な社員がいてくれれば、経営者の役割はそれほど大きくありません。しかし、何かが起こった時に、社長がすぐに事の重要性を判断できなかったり、解決方法を指示できなかったりすると、会社は迷走してしまいます。
だからこそ、その時に備えて先駆者の話を聞き、問題に直面しても大けがをせずに済む準備をしておくことが経営者の大事な役割です。
本書は、シリコンバレーを拠点にベンチャーキャピタリストとして活動する著者が、経営者としての自らの経験を書き下ろしたアドバイス満載の一冊で、私の起業家仲間の中でも話題になりました。それは、成功だけでなく、失敗も含めた彼の生々しい経験が、これから起こる問題を事前に予習させてくれたからです。
私が創業したクラウドクレジットは、起業から約5年経った今、社員も増え、ようやく持続的な成長ペースに乗ることができました。大変だった最初のステージから脱したものの、今でも、日々乗り越えなくてはならない問題は山積しています。それは、未来も同じでしょう。
本書は、自分が今いるステージによって、違う視野を広げてくれますから、一度ならず、二度三度読むことで、さらなる深みを与えてくれます。起業家だけではなく、多くのビジネスパーソンに読んでいただきたい一冊です。
title : HARD THINGS
author : 著 ベン・ホロウィッツ 訳 滑川海彦、高橋信夫
data : 日経BP社 1944円(税別) 392ページ
すぎやま・ともゆき◎2005年東京大学法学部卒業後、大和証券SMBCに入社、08年にロイズ銀行東京支店に入行。その後、13年にクラウドクレジットを設立し、14年6月より投資型クラウドファンディング・サービス「Crowdcredit」を運営している。