中国最古の医学書が説く、宇宙とのつながり

イラストレーション=岡村亮太 / ichiraku

ずっと答えが出ずに悩んでいたのに、ふとした出来事から物事が動き出すことがある。重要なのは、偶然出合うヒントを受け取る高感度な心のセンサーだ。


困ったことや解らないことが気になって、ずっとモヤモヤしていたのに、ふとしたことから解決策を思いつくことがある。通勤途中に中吊り広告で偶然目にしたキーワードから答えがひらめくようなときだ。

インターネットで調べれば答えが出る種類の話なら、調べればよい。でも未来のことや生き方など本質的で個人的な問題は、自分で答えを出すしかない。転職、結婚など個人的な問題は、選んだ結果が自分に返ってくるだけに長い間悩む。そんな経験を誰もがしているはずだ。
 
私も過去に悩んだことが何度もあった。外科医をやめる、アメリカの大学に就職する──そんなとき、本の中にふと背中を押してくれる言葉を見つけた。
 
何に「背中を押されるか」は人によって様々だ。中吊り広告の「行け」という文字を、自分へのメッセージだと受け止めて、思い切って行動したという人もいる。テレビを見ているときに、自身の問題とは関係のない会話に出てきた「撤退」という言葉からヒントを得て決断した人もいる。

もちろん「答え」を書いた広告のコピーライターや、結果的に背中を押すことになったテレビのアナウンサーは、問題を抱えている人に何らかの解決策を示唆しているとは思っていない。ただ、受け手が勝手に解釈して答えを出している。無意識下でずっと、その問題を考え続けているからだろう。

人は長く真剣に悩むとセンサーが鋭くなり、その問題とは直接関係のない環境から答えをもらうことがよくあるようだ。
 
老婆に箒でたたかれて悟った臨済宗中興の祖である白隠禅師や、カラスが「カー」と鳴いたのを聴いて悟った同じく臨済宗の一休宗純の状況も似ているかもしれない。普通の人はカラスが騒いでも悟りを開くことはない。情報は同じでも受け手のセンサーや意識で情報の持つ意味は変わる。

先日、豪雨の時期に吉野の金峯山寺から山上ヶ岳(大峰山)のお堂まで何十キロも山道を歩き、岩を這い上がった。千年以上続く伝統行事、蓮華奉献入峯である。その途中、真言(お経)を何十回もそれぞれの聖地に捧げる。百人以上の大合唱だ。私を含め全員がお経の深い智慧を感得しているわけではないが、私はお経を唱えながらこの大合唱がどこかに届いていると確信した。百人が唱えるお経が、どこの誰に届いたかは知らないけれど。
 
中国の古代哲学に「天人合一」という考え方がある。世の中の全ての物事と人は、互いに影響し合っているという考え方だ。五経の一つ『易経』や中国最古の医学書といわれる『黄帝内経』も、人間と外界のすべてのものとのつながりを説く。それがこの世の仕組みだとすれば、どんな些細な自分の動きも、どこかに影響があるような気がしてくる。

頭で考え過ぎず、偶然出くわす「答え」を見逃さないようにしたいものだ。


さくらい・りゅうせい◎1965年奈良市生まれ。国立佐賀医科大学を卒業。聖マリアンナ医科大学の内科講師のほか、世界各地で診療。著書に『病気にならない生き方・考え方』(PHP文庫)。

文=桜井竜生

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