これには、海外に比べ、クレジットカードのデフォルト率が低く、発行審査も厳しくないことや、ATMが整備され、キャッシュカードが普及していること、また、とりわけ都市部では電車通勤者が多く、鉄道系電子マネーが広く保有されていることなど、さまざまな要因がある。
一方で、これらのデジタル決済手段が、いずれも現金の牙城を崩すに至っていないことも、日本の特徴といえる。
日本銀行では9月末、「キャッシュレス決済の現状」と題する調査レポートを公表させて頂いた。地域別にみたキャッシュレス決済の利用度など、興味深いデータが数多く含まれており、ご関心のある向きは、日本銀行のウェブサイトに掲載されているレポートをご覧頂ければと思う。
(出所)日本銀行「キャッシュレス決済の現状」*日本銀行「生活意識に関するアンケート調査(2018年6月)」を参照して日本銀行が作成。利用比率は都道府県別ではなく地域ブロックごとに算出。
日本はなぜキャッシュレス化が遅いのか
ところで、決済手段は「簡単」や「おしゃれ」も大事だが、何よりも重要なことは、「どこでも使える」ことである。
あらゆる決済手段は、強い「ネットワーク外部性」を持っている。クレジットカードは、使えるお店が多いほど持つメリットが増えるし、持っている人が多ければ、店が加盟店になるメリットも増える。
コンビニのレジで、海外出身のパートタイマーの方々が正確に小銭でお釣りを返してくれることにはいつも感服するのだが、その陰には相当なご苦労もあるだろう。しかし、一定以上の顧客が現金を使う以上、店側も現金を受け入れる用意をせざるを得ない。
このように、既存の決済手段が「どこでも使える」という「ネットワーク外部性」を強く持っている場合、新しい決済手段がこれを凌駕していくことは簡単ではない。日本やドイツのように、従来から現金が広く使われてきた国々ほど、キャッシュレス化のスピードがゆっくりになりがちなのも、このような事情を反映していると考えられる。